59:とって食ったりしねぇよ ページ9
来てしまった。とうとうこの時が。
樹の家のインターホンを押せば、樹は相手が誰かも確認してないんじゃないかってくらいすぐに出てきた。
あぁもう出てくるまでに深呼吸のひとつやふたつしておきたかったのに。
ドアを開けた樹は「入れば」なんてなんとも思ってない風に言うけど、本当は私と同じくらいドキドキしてるはずだ。
「うん…お邪魔します」
「そんな緊張すんなよ。別にとって食ったりしねぇわ」
どこか聞き覚えのある言葉に緊張しながらも、ふふって笑いが溢れる。
「なんだよ、」
「樹、最初に会った時も言ってたなって。【とって食ったりしないわ』って」
「そーだっけ?」
んなの忘れたわ、なんて樹は後ろ頭を掻く。
そんな樹の背中を見ながら、部屋の中へと入る。
久しぶりに来た樹の部屋は、何も変わってないはずなのにどこか落ち着かなくて。
キョロキョロと視線を動かしていると「なんも面白いもんなんてねぇよ?」って樹に言われてしまった。
「久しぶり」
「うん、久しぶり」
2人でソファに腰掛ける。
付き合ってたときはぴったりと寄り添っていたから狭くて仕方なかったはずのソファが真ん中にぽっかりと空いた空間があるせいかやけに広く感じる。
「…この前、高地くんとジェシーに会ったよ」
何から話せばいいのかわからなくて。
思いついたのは、2人の話だった。
「あいつらに?」
俺、あいつらから聞いてねぇけど、なんて樹はどこか不満そうで。
「うん、それで、、全部聞いた、その、浮気相手のこと」
「あー、そっか、聞いたんだ、、そう、かぁ」
樹は、どこか安心したようなでも、どこかで知って欲しくなかったとでもいうような表情を浮かべた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月25日 13時