57:タイミング悪 ページ7
「うーわ、タイミング悪」
「タイミング悪、じゃねぇのよ」
松村さんが私の隣の席に座ると、私が手元に持っていたメニューをするりと取った。
「俺、ハイボールと肉じゃがとおまかせサラダのトマト抜き」
「はいはーい。あ、Aちゃんは？」
「あ、えっとカシスオレンジと、」
あとは、って言おうとしたら松村さんが「俺と一緒に食べるからとりあえずそれで」なんて遮る。
はいよーって慎太郎さんがいなくなって、静かな空気が流れる。
「お元気でした？」
沈黙を切り裂いたのは、松村さんのほうだった。
「あ、はい」
「そ、ならよかった」
松村さんはそう言うと優しく微笑んだ。
松村さんからメッセージは来ていたけど、なかなか返す気になれず既、読をつけたまま放置していたから若干気まずい。
もし自分が松村さんの立場なら、嫌われたのかな、とか色々考えてしまうから。
「ごめんなさい、メッセージ返さなくて」
「全然。既読がつくだけでとりあえずAさんは俺のことまだブロックしてないって確認出来たし。それに多分、返すだけのエネルギーもなかったでしょ？」
なんか複雑そうだったし、ちがう？って首を傾げてこちらを見る松村さんに首を振る。
首を振った私を見て「それなら許す」なんて少し意地悪な顔して松村さんは笑う。
「松村さん」
「ん？」
「明日、元彼と話をするんです。話したら色々長くなるんで言えないですけど、本当に色々あって」
「うん」
「やっとあの紙袋をどうするか決められそうです」
「そっか」
あの紙袋は樹に返そうと決めた。
自分があげたプレゼントを返されるなんて嫌かも知れないけど、でも捨てるのも売るのもそのまま手元に持っておくのもどれもしっくりこなかったから。
運ばれてきたお酒と料理に箸を伸ばす。
松村さんは深く聞いて来ないけど、何かを感じ取っているようだった。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
