春鉛 #2 (ページ5)

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55:ジョーダンページ5

『ダメなわけ、ねぇじゃん』

俺も話してぇから、って言った樹の声は少しだけ弱々しくて。

「時間、いつ空いてる？」

『Aのためならいつでも空けるよ』

「そういう言い方、ズルい」

『ズルくねぇよ、別に。思ったこと言っただけだし』

ほら、やっぱりズルい。

「じゃあ、明後日の夜は？」

『ん、大丈夫。場所は？』

「樹の家は？」

『いいけど…いいのかよ』

「え？」

『帰さないって閉じ込めるかも知れねぇじゃん』

「…やっぱやめる」

『うそ、ジョーダンだから！』

今、言う冗談にしてはタチ悪いんだけど。

冗談だと分かっててもどう反応していいのかわかんなくて。
付き合ってたときなら「バカじゃないの」ってすぐに笑い飛ばせたのに。

『黙んなよ』

「ごめん」

いつの間にか私たちの関係性は歪になってしまった。
その事実に少しだけ胸が痛くなる。

『明後日待ってるから』

「時間分かったら連絡する」

『おう』

じゃあね、って電話を切る。

終話を知らせるプー、プーと続く音を聞きながら、ひとつ小さな息を吐いた。

部屋の隅に置いたままの紙袋に手を伸ばす。

「…コレとも本当にお別れだな、」

指先が触れた紙袋が、ガサっと小さく音を立てた。

その音が胸をギュッと締め付けた。

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