81:意識 ページ31
2人並んで歩く。
慎太郎さんがあんなこと言うから、必要以上に松村さんのことを意識してしまう。
そのせいで居心地がすこぶる悪い。
「Aさん？」
「は、はい、っ！」
突然呼ばれたと思ったら、松村さんの顔が目の前に現れて、びっくりして自分でも驚くくらい大きな声が出た。
「そんな、驚く？」なんて松村さんがふふ、って笑うから余計に恥ずかしくなる。
「いや、ちょっとぼーっとしてて、」
「ぼーっと？ならいいけど。なんかあったのかと」
松村さんが眉を下げて笑う。
いや、ほんとは何かありました。
慎太郎さんの言葉のせいで、自分が松村さんのこと気になってるんだって自覚しちゃってガンガンに意識してるせいです。
…なんてそんなこと言えないけど。
このままじゃダメだと回らない頭を必死に動かして話題を探す。
なにか、なにか、、、あ。
「あ、あの、！」
「はい？」
「…元彼と、話、してきました」
その居心地の悪さを誤魔化すように咄嗟に口から出たのは樹とのことだった。
紙袋の件もあるし、松村さんにはちゃんと報告するべきだとも思っていたし…なんてそれは若干言い訳に近いけど。
「お互いの気持ちをちゃんと話すことが出来ました。それぞれが思ってること言って、」
樹にやり直そうと言われたことも、元に戻っても樹のことを傷つけてしまうことになりそうで怖いということも。
ひとつひとつゆっくりと話をする。
松村さんはそんな私の話に相槌を打つ。
優しいその相槌が優しくて、少しだけ泣きそう。
「それで最後は笑って終わりにしようって、あの紙袋の中身を売って2人で焼肉食べました」
「…え、？」
「意味わかんないですよね。でもそれが私たちにとって、ちゃんとケジメをつけるというか。終わりにするために必要かな、って」
「いや、いいと思いますよそういうの」
松村さんは、私の言うことを否定せず包み込んでくれる。
その声が優しくて胸がギュッとなる。
「Aさん」
「はい、？」
「よく頑張りましたね」
ポン、と頭に松村さんの大きな手が触れる。
ゆっくりと伝わる松村さんの体温に胸の奥のほうがギュッとなる。
「って、子ども扱いしちゃった」
すみません、なんて松村さんは少しだけ困った顔をして、その手を離す。
子ども扱いでもなんでもいいから、もう少しその体温を感じていたいだなんて思ったけど言えるはずもなく。スゥ、っと消えていく松村さんの体温が少しだけ寂しい。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月25日 13時
