10:一週間前の金曜日 ページ10
一週間前の金曜日は、私の25回目の誕生日だった。
樹が予約したいつもより少しだけいいお店に2人で食事に行って、他愛もない話をした。
「これ、やる」
テーブルの上に差し出された小さな紙袋。
女の子に人気のブランドのやつだっていうのはすぐに分かった。
「え！ありがとう」
「お前に似合うと思うよ」
紙袋の中に入った箱を開ければ、そこにはピンクゴールドに小さな石があしらわれたブレスレットが入っていた。
そのブレスレットを手首につけ、樹の前で小さく揺らす。
「どう？似合う？」
「ん、やっぱ思った通り似合うわ」
樹はそう言って優しく笑った。
でも、そのあとで少しだけ悲しそうな、苦しそうな顔をした。
「樹、？」
どうしたの？と樹の顔を覗き込むと「なんでもねぇよ」なんて誤魔化すように笑われて。
そんな樹に少しだけ違和感を覚えながらも、私は手元で揺れるブレスレットをゆらゆらと眺めた。
店を出て、いつもみたいに2人で並んで歩く。
川沿いの道を歩いていると、樹が突然歩みを止めた。
「樹？」
どうしたの？と振り返り樹のほうを見ると、樹は苦しそうな顔でアスファルトを眺めていた。
「じゅり、」
何かあった？と手を伸ばそうとしたら、その手を払い除けられた。
え、なに。
「…A、ごめん、」
樹の声が震えている。
何がごめんなのか全然分からない。
大丈夫だよ、なんで謝るのって樹に触れたいのに、さっき拒まれた手を再び伸ばすことはできなかった。
「な、にが」
「…別れよ、俺たち」
「…え、？」
意味がわからない。
樹の言葉に頭が真っ白になっていく。
今日は私の誕生日で。
さっきまで楽しく笑い合って、プレゼントももらって。
またこれからもよろしくね、ってそう言葉を交わしたのに。
なのに、なんで。
なに、別れようって。
さっきまでの出来事と樹の発した言葉が全然一致しなくて、余計に頭が混乱する。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月15日 22時
