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43:わからない ページ43

声がした方に視線を向ける。

松村さんも私と同じように視線をゆっくりとそちらに向けた。





「…樹、」




そこにいたのは樹だった。
目が合うと「よっ」と小さく手を挙げる。





「松村さん、今日はありがとうございました」

もうここで大丈夫です、って口早に言い絡んだ指先を解き、樹のほうへ向かおうとした。
でもそれは松村さんの手によって止められた。

松村さんは私の手首をぎゅっと掴むと「大丈夫?」と顔を覗き込む。
その瞳には不安そうな色が滲む。

その不安を解くように「元彼です、あの例の」なんて無理矢理笑ってみたけど、松村さんの表情は曇ったまま。




「大丈夫ですから。また連絡しますね」


そう言って、松村さんの手を丁寧に解く。

最後の一本の指が離れる。


じゃあ、と手を振ると、松村さんはなんとも言えない表情でこちらに手を振った。









「誰、あいつ」


樹に近づくと、樹は不機嫌なのを隠すこともせずそう言った。
まるで、自分の女なのに何勝手に手出してんだよ、なんて言いたそうなその口調に胸の奥がざわついた。




「別に、樹に関係ないでしょ」


やましいことなんてひとつもないけど。でも樹に松村さんのことを言う必要もないと思った。
精一杯の抵抗を込めた言葉に樹は「つめてぇな」なんて自虐的に笑う。



「新しい男?」

「んなわけ、」

「ふーん?それにしてはやけに仲良さそうじゃん?」

「別にどうでもいいでしょ。それよりなに、?」



何もなかったように普通に話をする樹は何を考えているのだろう。

樹のことを忘れて前に進もうとしているのに、彼はそれをそう簡単に許してはくれないようだ。



「話があるんだよ」

「…私は話なんかないよ」



今更、話すことなんて何があるの。
樹は私を裏切って、新しいところへ行くだけなのに。




「聞いてくれたっていいじゃん」

「聞く必要ある?」


聞いたところで私が救われるわけでもないのに。









「やり直そうぜ、俺たち」



聞く必要なんてないのに、樹は勝手に話し始めると、私のほうへと手を伸ばす。


抱き寄せられそうになる体を慌てて引き離す。
体を離した私に樹は悲しさと怒りが混ざったような視線を向けた。

その視線が何を意味しているのか、わからない。



樹は何を考えているのだろうか。
それは私にはさっぱりわからなかった。





.

44:張り裂けそうだ→←42:謝らないで



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設定タグ:松村北斗,京本大我 , 田中樹 , SixTONES   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時

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