春鉛 (ページ34)

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34:その熱ページ34

「…あんま連絡先交換とかしないからやり方分からなくなっちゃいました」

ほんとはいつもQRコード読み込む側なんです、俺。慣れないことするもんじゃないわ、なんて松村さんは苦笑い。

「見せてもらっていいです？」

「ん、お願いします」

「ここですよ」

QRコードを表示するアイコンを指さす。

「あ、ほんとだ」

ありがとうございます、って顔を上げた松村さんと目が合う。

その距離は今にも触れてしまいそうなほど近くて。

慌てて目を逸らすと、松村さんの手が私の頬に伸びる。

「Aさん、？」

「はい、？」

「…キス、してもいいですか？」

はいともいいえとも言わぬ間に唇に触れた小さな熱。

その熱は優しく溶けて、すぐに消えていく。

「…ごめんなさい、調子乗りすぎた、俺」

松村さんはすぐに体を離し、目を逸らした。

少し長めの髪から見える耳が赤く染まっている気がするのは、気のせいだろうか。

「じゃあ、」

松村さんはそう言うと玄関のドアを開け、足早に去っていった。

バタン、と乱雑に閉まったドアが大きな音を立てる。
私はその場にへにゃり、と座り込んだ。

ゆっくりと唇を指でなぞればまだそこに熱が残っている。
その熱に胸の奥がぎゅっと苦しくなる。

手から滑り落ちたスマホの画面。

友達リストに追加された【松村北斗】の名前が煌々と映し出されていた。

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