28:勘違いしちゃいますよ ページ28
「どうぞ」
「お邪魔します」
一緒にいたいとは言ったものの、生憎ここは住宅街のど真ん中で入れるようなお店もなくて。
消去法で私の家に招くことになった。
こんなことだったら、日頃からちゃんと家を片付けとく習慣をつけておけばよかったなんて後悔をする。
「コーヒーでいいですか？」
「あ、お構いなく」
ソファにちょこんと座った松村さんは、なんだかちょっとだけ落ち着かないみたいでそわそわしている。
なんだか不思議な感じだ。
この部屋に人が来たことがないわけじゃない。樹だって何回も来た。
でも、それとは違うドキドキ感が足元に絡みつく。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
テーブルにコーヒーを置いて、少し距離をとって私もソファに座る。
「なんかいいのかな」
「え？」
「同僚さんにはあんなに断ってたのに。俺なんかが家にお邪魔しちゃって」
そう言って、松村さんはまた困ったように笑う。
そうやって困った風に笑うのは松村さんの癖なのか、それとも私のせいなのか。
「勘違いしちゃいますよ、男って案外単純だから」
困った顔してるくせに、やけに真っ直ぐな瞳がこちらを見る。
「松村さん、？」
「そんな困った顔しないでください」
ごめん、困らせたのは俺か、って髪をぐしゃぐしゃに掻き乱す。
その姿に手を伸ばして、触れたくなるのは、なぜだろう。
「…勘違いしてくれたらいいのに、って思ったらズルいですか、？」
松村さんは私の言葉に目を大きく見開いたあとで、ゆっくりと細めていく。
「…それは、ズルい、ですね」
ほら、また松村さんは困ったように笑う。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2021年9月15日 22時
