17:振り出しに戻る ページ17
「…私は捨てる意思を示したんですけど?」
誰かさんのおかげでそれは結局、振り出しに戻ってしまったんだけど。
「…あ、たしかに」
ごめんなさい、って松村さんは申し訳なさそうに眉を下げる。
その姿はまるで、大型犬がご主人様に怒られて落ち込んでいるようだ。
「でも」
「でも?」
「もう一回だけ考えてみます」
多分考えたところで、同じ結末を辿る気はするけど。
とりあえずは一旦持ち帰ることにしよう。
それはこれが今更惜しくなったわけでもなんでもない。
…じゃあなんなんだって言われたら上手く言えないんだけど。
「決まったら、」
「はい?」
「決まったら、また会えますか」
私の言葉に松村さんは一瞬、驚いた顔をして。
でもすぐにその顔を真剣なものに変える。
「決まんなくても会いたいとか言ったら迷惑ですか?」
首を傾げているくせに、私の肯定の言葉しかいらないみたいなそんな空気。
「さぁ?どうでしょう?」
そう言って誤魔化した私は多分、どこまでもズルい。
#
松村さんと別れ、家に帰ると、すぐにベッドへ倒れ込んだ。
今更、京本と飲んだお酒の酔いが込み上げてきたのか、頭の中がぐるぐるとして気持ち悪い。
…なんだったんだろう。
今夜のことを振り返ってみても結局よくわからないまま。
ただ一つはっきりしてるのは、あのブレスレットがまた私の手元に戻ってきてしまった、ってことだけ。
捨てて綺麗さっぱり忘れるつもりだったのに。
そう出来ないのは、樹の呪いかなんかなのかな。
そう思ったらちょっとだけ面白くなったけど、すぐに樹はそんなタイプじゃないななんて思い直す。
「さて、どうするかなぁー」
部屋の片隅に置いた紙袋にチラリ、と視線を向ける。
どうするかなんて改めて考えたら何が正解なのかわからなくて。
結局ぐるぐる巡り巡ってわけがわからなくなった私は、目を逸らすように眠りの世界へと逃げ込んだ。
.
944人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時