57-一瞬の光 ページ12
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自分は単純だという自覚はあった。例えここが札幌という非日常の空間でなくたって、滝のような心踊る壮大な景色が広がっていなくたって、悟さえ隣にいれば全力で幸せを感じられる自信があったから。
とてつもない多幸感は、恐怖と隣り合わせだった。
私が悟を好きすぎるからこう感じているだけなら構わなかった。____でも、悟も同じように感じてくれているとしたら?私がいるだけで、こんなにも幸せそうな表情を見せてくれているのだとしたら。
私だったら、悟を失ったら生きていけないと思ってしまう。彼無しの人生に意味を見出すことはできないと。
そんな思いを悟にさせるのは嫌だった。
残された時間、彼との接し方をよく考えなければいけないと思った。
夜はロープウェイで山を登って夜景を見に行った。名所なだけあり、大勢の人で賑わっている。人混みを抜けて山頂から景色を見下ろす。
その先には、宝石箱をひっくり返したような眩い輝きが散りばめられていた。ギラギラなネオンの輝きではなく、人の生活の営みが感じられる柔らかい光が、視界の全てを覆い尽くす程に灯っている。淡いオレンジ色の光が世界が照らしている光景はあまりにも穏やかで幻想的だった。涙が出そうになる。世界はこんなにも優しさで包まれているのだと、柔らかな光は雄弁に語りかけてくる。
「悟、見て。綺麗だね」
「だな。……泣きそう?」
「うん、なんか泣きそうになっちゃった。綺麗な景色ってこんなに感動するんだね。知らなかった」
涙を我慢する私の手を、悟の大きな手が力強く握る。
私だって前までは夜景を見て泣きそうになるロマンチストなんかじゃなかった。なのに今、ここまで心を動かされているのは最期だと悟っているから。こんなにも美しい景色を目に映すことができるのは、人生で最期なんだ。
「私は今の感動を絶対に忘れない。悟は、これからも沢山綺麗な景色を見てね」
零れた声に込めたのは祈りだった。
私がいなくても、君は幸せでありますようにと。
多くの観光客の声に掻き消されそうな声で、悟は言う。悟に心を奪われている私は、彼の声ならどんなに小さくても拾うことができる。
「……Aといられるのは俺の人生だと一瞬なのかもしれない。でもきっと、一瞬が永遠になることもある」
涙は夜景に感動したせいにして、聞こえなかったフリをした。愛しくて嬉しい、でも絶対に受け取れないプロポーズだったから。
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紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - 大学生っっっっっっっ!今度は逆のナンパだ、、、、よっ!良い!!!!!! (4月11日 15時) (レス) @page50 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
moo(プロフ) - 面白かったです! (4月11日 13時) (レス) @page50 id: e3fdbdb203 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - これからもずっと応援してます! (4月8日 1時) (レス) id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - だいすきです、、、、心の中で夢主ちゃんに喋りかけててほんとに大切な存在だったのがわかって泣きました、、、完結おめでとうございます!そしてすばらしい作品を創ってくださりありがとうございます!はむスターさんの書く作品全部大好きです! (4月8日 1時) (レス) @page49 id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
紅奈虹夢@虹茶(プロフ) - ......じんわりくる! (4月7日 21時) (レス) @page49 id: 763d4d21f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はむスター | 作成日時:2023年9月10日 20時