08-五条先輩 ページ9
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同年代の仲間達と胸を弾ませながら過ごした春は過ぎ去り、呪術師にとって繁忙期となる夏がやってくる。私の頭を悩ませていたのは、多くなるであろう任務よりも、明日の本家への帰省のことだった。
……行きたくない。でも、行かないと母が危ない。でも、息苦しいあの家に行きたくない。______直哉に会いたくない。
気分はどん底。明日の早朝に出発するというのに、中々寝付けなかった。夜も深まる頃合いだというのに、未だに鳴き続けている蝉がいる。その元気と能天気さを分けてほしいなぁ、と思いつつパーカーを羽織って夜風に当たりに行った。
寮の入り口の階段に腰掛けて暗い空を見上げる。雲がかかっていて月は隠れていた。
「こんな時間に何してんだよ、不良少女」
暫くすると後ろから声が掛かった。振り向けば、上の段からこちらを見下ろす五条先輩がいた。不敵な笑みを浮かべる口元。直哉に見下ろされるのは物凄く嫌だけど、五条先輩ならそこまで嫌じゃないなと気づいた。
「不良少女を見つける先輩も不良少年ですね」
皮肉を返せば、ははっと短い笑い声が響いて、階段を降りてくる。五条先輩は私の隣に座った。
「寝れないの?」
「はい。ちょっと目が冴えちゃって」
「この前は任務帰りの車で爆睡かましてたくせにな」
「あれは仕方ないじゃないですか!低級の呪いとはいえ10体くらいいたのに、祓うの先輩全然手伝ってくれないからヘトヘトになっちゃって」
「あれは俺の愛の鞭ですー。後輩を強くしてやろうと思ったんですー」
「よく言いますよ。ケータイのゲームに夢中になってただけのくせに」
「てへ♡」
「可愛い顔しても許しませんからね」
五条先輩と他愛のない話をしていると、本家のことを考えて沈んでいた心が徐々に落ち着いていった。
表情から強張りが抜けてきた頃を見計らって、膝に頬杖ついた先輩が「んで?」と切り出す。
「何でAは落ち込んでるわけ?」
「……んー、落ち込んでるっていうか」
「何でもいいから早よ話せって。お前は馬鹿みてぇに能天気に笑ってんのが1番似合うよ」
「なんだろ、褒められた気が全然しない」
「いーから、早よ話せ〜」
五条先輩に促されて、悩みのタネを吐き出すことにした。
「明日、本家に顔出せって言われてて」
「それが嫌なのか?」
「……会いたくない人がいまして」
「会わなきゃいーじゃん」
「そうもいかないんですよ」
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はむスター(プロフ) - さえさん» クズ男の自信のない告白いいですよね!!← お読みくださりありがとうございます☺︎ (1月31日 23時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - ......好きなんやが狂うほど好きです!!!!!! (1月26日 20時) (レス) @page17 id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - 雪菜さん» いつもありがとうございます!☺️うちの夢主は容赦ない時はほんとに容赦ないですからね…!笑 (1月26日 18時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
雪菜(プロフ) - 傷ついた顔をした直哉にも容赦ない夢主が大好きです…🤦♀️💞 (1月24日 16時) (レス) @page15 id: f0574d2f45 (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - xs.さん» ありがとうございます嬉しいです!☺︎ (1月23日 23時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はむスター | 作成日時:2024年1月13日 17時