06-逃げるが勝ち ページ7
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痛い。
遅効性で襲ってくる痛みではなくて、瞬時に燃え上がるように痛みが広がっていく。恐らく赤くなっているであろう右頬を抑えると、みるみるうちに目に涙が溜まっていく。
倒れたまま、かろうじて直哉を見上げた。ゾッとする程冷たい目でこちらを見下ろしている怪物がいて、呼吸の仕方すら忘れそうになった。
「俺やってAちゃんの可愛いお顔をなんべんもしばきたないねん」
「…」
「な?俺の後ろを歩け」
冷たい視線が心にまで侵食して、途端に冷めていく。
ああ、面倒だな。
言うこと聞かないとまた殴られるんだろうな。
抵抗するの面倒くさいな。
こんな場面でもどこか達観してしまっている自分がいた。抵抗するとまた面倒くさいことになるなら、表面上だけでも従っておいた方がいいと。
「……分かった」
直哉は意地悪く頬を緩めると「最初からそうやって素直になっといたらよかったんや」と言った。ここで、明らかに上下関係が成立した。
私と直哉が友達でなくなった瞬間だった。
本家に訪れるのが前よりもずっと億劫になった。こんなに気分が沈むなんて思っていなかった。思ってきた以上に直哉に友情を感じていたのだと今更自覚する。でも、あの夜夢を語り合ってちょっとだけ好きになれた直哉はもういない。
母に「本家に行きたくない」と不満を零したことがあった。母は私の意見を尊重してあげたい気持ちと、自分1人で本家に行くのが恐ろしい気持ちで葛藤してるようだった。母も私という存在があることで救われていたことを知った。知ってしまったら、母を1人で行かせることはできなかった。
変わらず年に4度だけ訪れる本家。
直哉は私を後ろにつかせる。
「Aちゃん、なんで何も喋らへんの?」
「話すことがないから」
「おもろい話してや」
「……、直哉が面白いと思う話なんかできないよ」
「ハァ、おもんない女になったな」
チッと舌打ちをした直哉にビクッと肩が恐怖で跳ねた。殴られた時のことがフラッシュバックした。結局殴られたのはあの1度だけだったけど、恐怖は体に染み付いている。怯える私を見て、直哉はまた舌打ちする。
「やっぱ女はしょうもないわ」
直哉は私以外の女性にもこんな態度だった。いや、私以外にはもっと酷かった。それを見るのも嫌だった。
息苦しい本家。変わってしまった直哉。
逃れたくて、15歳になった私は決意した。
呪術高専の東京校に入学すると。
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はむスター(プロフ) - さえさん» クズ男の自信のない告白いいですよね!!← お読みくださりありがとうございます☺︎ (1月31日 23時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - ......好きなんやが狂うほど好きです!!!!!! (1月26日 20時) (レス) @page17 id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - 雪菜さん» いつもありがとうございます!☺️うちの夢主は容赦ない時はほんとに容赦ないですからね…!笑 (1月26日 18時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
雪菜(プロフ) - 傷ついた顔をした直哉にも容赦ない夢主が大好きです…🤦♀️💞 (1月24日 16時) (レス) @page15 id: f0574d2f45 (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - xs.さん» ありがとうございます嬉しいです!☺︎ (1月23日 23時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はむスター | 作成日時:2024年1月13日 17時