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04-何度も思い出すことになる夜 ページ5

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13歳。何もしてなくても汗ばむ、茹だるような夏の深まった夜のことだった。いつもよりも母の用事が長引いて、夏の陽の長い太陽が沈んでも本家にいた。


暑い暑いと唸りながら、縁側に座ってまん丸のお月様を眺めていた。暇を持て余した直哉も隣にいて、どういう話の流れでか忘れたけど互いの夢を話した。





「俺はこの家の当主になる。そんで1番強う、偉なるんや」

「……直哉らしいね」

「Aちゃんは?」





夢なんて誰にも話したことがなかった。友達にも、勿論母にも。


……なのにどうして、年に4回しか会わないようなプライドの高いクズ野郎に話してしまったのか。


大人になった今でも世界三大ミステリーの1つであるものの、不思議と後悔はなかった。


膝を抱えて、ぽつりと零す。





「……私は、強い仲間を沢山作りたい。ここは大変な世界だからこそ、皆で支え合って、笑っていられる時間を少しでも長くできるようにしたいな。だから、仲間を強くしたい」





……直哉も一緒に、とは言わなかった。言えなかった。


直哉は月を見上げたまま「きっしょい夢。俺には理解できひん」と鼻で笑った。


人の夢を……。やっぱこいつクズだな、と腹が立った瞬間。


隣から伸びてきた手がぽんぽんと頭を撫でた。彼のイメージからかけ離れた優しい手で、酷く驚いたのを覚えている。





「ほんま、Aちゃんらしくてしょーもないわ。……でも、悪ない夢やな」





直哉が私を褒めてくれたのはこれが最初で最後だった。


月明かりに照らされてぼんやりとしている輪郭。見上げた月にどんな想いを馳せているのだろう、と何処か憂い帯びた横顔を眺めて思った。


口にすればこの男に溺れていく火種になったのかもしれないけど、私の口から出たのは「あっつ……」と夏を疎ましく思う声だけだった。


誰にも言ったことのない夢を語ったこの夜だけは、直哉と友達以上でいられた気がした。秘密を話すと親密度が上がるっていうのは本当らしい。夢を語った後は、直哉のことをいつもよりちょっっとだけ好きでいられた。




しかし、平穏な時間は長くは続かなかった。


歳を重ねるにつれ、直哉にも禪院家での教えが理解できるようになり、染み付いていった。


直哉は変わっていった。


以前までは多少は好意的な感情を持ってくれたと思う。じゃないとあんなに絡んでこないだろうし。


それが歪に形を変えて。


私を“女”という下等生物として、蔑むようになった。






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設定タグ:呪術廻戦 , 五条悟 , 禪院直哉   
作品ジャンル:恋愛
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はむスター(プロフ) - さえさん» クズ男の自信のない告白いいですよね!!← お読みくださりありがとうございます☺︎ (1月31日 23時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
さえ(プロフ) - ......好きなんやが狂うほど好きです!!!!!! (1月26日 20時) (レス) @page17 id: 06c640ba36 (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - 雪菜さん» いつもありがとうございます!☺️うちの夢主は容赦ない時はほんとに容赦ないですからね…!笑 (1月26日 18時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)
雪菜(プロフ) - 傷ついた顔をした直哉にも容赦ない夢主が大好きです…🤦‍♀️💞 (1月24日 16時) (レス) @page15 id: f0574d2f45 (このIDを非表示/違反報告)
はむスター(プロフ) - xs.さん» ありがとうございます嬉しいです!☺︎ (1月23日 23時) (レス) id: fadfb7919a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:はむスター | 作成日時:2024年1月13日 17時

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