【wrwrd】彼こそ異端者なり【男主】 (ページ19)

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赤に呑まれゆく63 ページ19

奈良県庁は朝から殺伐としていた。

「前線崩壊してるやん、職員！後ろに要塞立てる指示を現地に出して！」

「分かりました！」

「クッソ、なんでこんな事なってんねん！」

俺は終始叫びながら指示を出し、職員の慌てた姿から唯一平然と俺の机の横で携帯を弄っている福岡さんに視線を移す。
彼は視線に気づいて携帯をしまいながら説明を開始する。

「俺...西海州と大阪府が昨日の深夜に同時奇襲を仕掛けたんですけど」

「俺それ聞いてへんぞ」

「オスマンさんに『メンバーにも言うな』と言われてたので...」

俺は舌打ちをしてオスマンに電話を掛ける。

『もしも___「同時奇襲って何やねん！！聞いてないぞ！俺も誘ってや！！」...え、怒るところそこ！？』

「奈良さん、奇襲攻撃が三県に増えてたとしても結果は同じだったと思いますよ」

俺の電話のやり取りを聞いた福岡さんはため息をつきながらそう言い、俺の手元にある奈良戦線モニターを覗き込む。
見てわかるほどの劣勢で、今は奈良軍とメンバーの義勇軍、兵庫県の最新鋭戦車などが視認できる。

「...こうなったらもろとも...」

急に冷たい表情で何かを呟いた彼は部屋を出て行こうとする。俺は咄嗟にその腕を掴み、微かに聞こえたその発言の真意を聞く。

「『もろとも消し去る』って何や？核で県庁ごとぶっ飛ばすつもりか？」

「まだ試案段階ですよ、そんな本気にならなくてもいいですよ」

そんなほんわかと言われても説得力が無い。彼には前科がある。

「それやったら...絶交するで」

「どうぞ？」

彼はさもどうでも良いと言わんばかりに返事をして俺の手を振り払いつつ「じゃあまた」と笑顔で手を振って部屋の扉を閉めた。

彼は本気だ。平和を願っているはずの福岡さんはどうも
『平和な日々を送りたいから戦争を避ける』
という普通の考えでは無く
『平和な日々を送りたいから戦争を手っ取り早く勝って日本を占拠する』
とかいうどこかバグで暴走したAIのような思考になっている様だ。

彼に対する批判は日々耳にする。テレビの報道、新聞などのメディアが宣戦布告より先に核を投下した事件をきっかけにずっと彼を非難している。

果たして彼はこの戦争に何を求めているのだろうか。