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そうして先程僕が眺めていた白い四角い物体の横に置いた。
あれ空気なんちゃらって云うんだ。
「どうもすみません!さぁ、そこの椅子にお掛けになって」
「こちらこそ、有難うございます」
近くの椅子に座るよう指示される。
机を挟んだ向かいの椅子に男性は座った。椅子はゆとりがある。二人掛けだろうか。もしやソファーかもしれない。
「あ〜、本当に大正時代からスリップして来たみたい」
「そう、本当にその辺りから来たんだって」
僕の一番の懸念点。
それは彼等、もとい此の時代の人々に僕が本当に昭和7年から来たという証明ができるか。
出来たところでどうなのか。ちゃんと働けるのか。冷静に考えて、僕は戸籍が無い筈だ。
「んー、どうやってこの時代?まで来たんですか?」
「いや、僕もさっぱりでして、本当に、目が覚めたらここに居たとしか……」
目の前の彼が用心深く僕を見る。
そりゃそうですよね!いや、いきなり「過去から来ましたー」と云う人間をすんなりそうですね!とは行かないよ。寧ろ、山本君が受け入れたのが驚きだ。こうも上手く行くとは。
普通はこういう反応をして然るべきだ。僕もそうするだろう。
「まぁ、山本君がからかいでこの方を連れてきたとは思えないけど……」
「あの、此方も何か証明出来るものでもあれば良いんですけど」
そう思って袂を探ってみる。戸籍謄本なんかある訳ないし、旅券も無いよな、保険証も多分無いよな……
「あ、申し遅れました、私池田と申します。ここの所長を勤めております」
いい笑顔で名刺を渡される。
そこには『公益社団法人 特別処理課中野事務所 所長
と記されている。
何だこの物々しい事務所名は。
「僕も名刺……ないですね」
「あぁ大丈夫ですよ!失礼ですが、一応経歴教えていただけないでしょうか?最終学歴は?」
そう来たか。
「はい。東京師範ですね」
「教師?」
「ええ」
「その前は?」
「中学が、地元の石川の、金沢二中」
「第二中学とかの二中?」
「はいそうです、説明不足ですみません」
「いえいえ」
そう言って彼、池田さんは紙にメモしていく。調べ上げられるのだろうか。恥のない経歴ではあると思うのだが、あ!
「あの、その中学実は中退していて、そこから陸軍士官にいたんですけれども、一応卒業はしたのですが、また病気で倒れて、師範学校に。その後は高等師範までいました」
「あー、正直あの時代の事はよく分かんないからな……」
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アリてる.冷花(プロフ) - すにすなさん» コメント有難うございます!私も覚えてますよ!!本当に嬉しいです頑張ります! (4月3日 11時) (レス) id: 39e2327944 (このIDを非表示/違反報告)
すにすな(プロフ) - 昔Riruriという名前でコメしたものです。このお話ずっと大好きです。これからも楽しみにしています! (4月3日 11時) (レス) @page20 id: b675f659fc (このIDを非表示/違反報告)
アリてる.冷花(プロフ) - さくさくパンケーキさん» コメント有難うございます。本当ですか!?とても嬉しい限りです。更新頑張ります! (2022年3月10日 17時) (レス) @page7 id: 39e2327944 (このIDを非表示/違反報告)
さくさくパンケーキ(プロフ) - とっっっても面白いです!占ツクの中で一番です!!更新楽しみにしてます! (2022年3月10日 16時) (レス) @page7 id: c7ea56a150 (このIDを非表示/違反報告)
アリてる.冷花(プロフ) - ひろぽにうむさん» コメント有難うございます。更新頑張ります! (2022年3月10日 16時) (レス) id: 39e2327944 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アリてる.冷花 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/wuashyt8942/
作成日時:2022年3月8日 17時