【WT】少女【kn】 (ページ3)

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「わ」

息を呑んだのは、その絵だけが異様な迫力を持っていたからだ。

中学時代からの友人は、この学校の美術コースに進学した。同じ中学だったというよしみで、誰も引き受けてはくれないという人物画のモデルを受けたが、彼女の頼みでなければ私だって断っただろう。

長い時間を同じ姿勢で拘束されるだけでなく、終始視線に晒されるのだ。ただ座っているだけだと言うには神経を使いすぎる。
しかも何かのコンテストに出すための絵だそうで、それを聞いてしまったときは怯んでしまったが、どうしてもと頼まれてしまうと私は弱い。

私だと分からない絵にしてほしいと言ったら、彼女はほとんど顔が見えない構図で描くつもりだからと笑った。実際、出来上がった絵の中で私は顎をあげて枠の外を見つめているようだった。
絵のことは私には分からないけれど、彼女の柔らかな色彩や光の当て方を、私は好きだと思った。

色を置き始めた段階でモデルとしての仕事は終わったけれど、私は放課後の第二美術室の雰囲気が好きで、彼女と下校をすることを言い訳に足しげく通った。

ちょうど真下にあるグラウンドを駆ける陸上部の姿や、ホイッスルの高らかな音、美術コースの生徒たちが集中できないという理由で真向いにあった教室から移動した吹奏楽部の楽器の音色、部屋に染み込んでしまった画材の匂い、その全てが私をどこか現実から乖離させてくれるような気がしたし、並べられた学生たちの絵はどれも個性があって、見ているだけで楽しめた。

友人のように居残って作業をする生徒は多くなかったというのも、私が美術室に入り浸れた理由の一つだ。
友人曰く、天才肌の学生が多いから、いつまでも時間をかけて描いているような生徒は少ないらしい。実際、授業の時間を割いて描かれているのであろう彼らの絵は、一日二日経てば目を見張るほどの変化をもたらしていた。