3話 ページ3
ランク戦のロビーに来たAは、周囲を観察していた。
影浦隊と、小さな白髪の新人に気づき、そっと話しかけようとしたところで、肩に誰かの手が触れた。
振り返るよりも先に「Aさん、太刀川さんが呼んでる」と声が落ちる。
「な、なんでバラすの〜！ 」
Aはため息をついて、迅の私服と化した隊服の胸を小突く。
「や、だっておれに飛び火するのが視えたからさ、ごめんね。
玉狛に遊びに来たときにそこの後輩も紹介するよ」
迅も迅で太刀川に捕まりたくないという顔して、両の手の平を見せてきた。「小南も京介もAさんの話してたよ」なんて付け加えて。
後輩の名前を聞くと怒りづらくなるのだから、食えない男だ。
「あ、ほら、太刀川さん」
「……借りはどこかで返してね」
ビシッと指を指したときも、迅は手を振って笑っていた。
「Aー個人戦するぞ」
「やだよ負け試合なんて……」
振り返った先、太刀川の隣に風間がいるのを見て、Aの目ははっと見開かれた。ほとんど模擬戦に来ない風間が、ここにいることこそ珍しい。
鋭く開いた赤目、感情を読み取れない静かな表情、風間を前にAの胸は密かに鼓動を速めた。
風間の顔には少し疲れの色が見えたが、こちらを射抜く視線に耐えられず、恥ずかしさから目を伏せた。
気付くと太刀川の靴がもう目の前まで迫っていて、有無を言わさず首に手を回されてしまう。
反射的に潰れたカエルのようなうめき声が出た。
「ぐえっ」
「まず5本な」
風間の姿は、雑に回された太刀川の腕に隠れて消える。
「太刀川」
突然耳に響いた風間の声に、Aは再び動揺した。
「休ませてやれ。お互い帰還したばかりだろう。Aは夜の防衛任務もあるからな」
Aはぎゅっと目を瞑りたくなる衝動に駆られる。
しかし、「はあ！？ 」という太刀川の声と共に首に力が込められて、物理的な息苦しさに襲われた。
「こいつバカか、いつ寝んだ」
「た、たち、し」
べしべしと太刀川の腕を叩く。相手はトリオン体だが、模擬戦など微塵もする気がなかったこちらは、未だ生身であった。
太刀川は本当に馬鹿だ。
驚きのまま力を込めていることに気付きやしない。
やむなくトリガーに手を伸ばそうとすると、力強く腕が剥がされ、喉に空気が通る。
「お？」
「……やり過ぎだ」
「風間さん……！」
拘束からの解放と同時に、膝に手を当て大きく呼吸する。ぽんと頭に風間の手が降りて、あやすように数回叩かれた。
ああもう──
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作成日時：2023年6月25日 21時
