18話 ページ18
頭で自覚するよりも早くAの髪に触れた両の手は、ゆっくりと頭を撫で、彼女の全身に触れる。
Aは一瞬身体を強張らせたが、やがて落ち着きを取り戻すと、風間の肩口に頭を寄せた。
さらりとした感触に、髪に隠れる耳の存在。
何より服越しに伝わる人の温かさが、生きているという実感を与えてくれた。
「……良かった」
風間は耳元でぽつりと呟いた。それと同時に、張り詰めていた何かがぷつんと切れたらしい。
背中に回していた手がするすると抜け、脱力感を覚えたときには、膝に冷たい床の感触が伝わっていた。
「か、風間さん！ 」
焦ったAは咄嗟に風間の右手を掴んだ。彼女の手は冷たくて、まだ体温が戻りきっていない。
触れたことはあるはずなのに、やけにドキドキする。
「大丈夫？風間さん、疲れてるんじゃない？ 」
心配そうに覗き込むAの顔を見上げると、身体を曲げた彼女の顔が存外近くにあって、そこで言葉は失われた。
「かざまさ……」
頬に手を差し出して、涙の跡が見える白い肌に口付けた。一度触れて、もう一度。音もなく、ゆっくりとキスをした。
見開かれた目からはまた涙が溢れ、ぎゅっと閉じる度にぽたり、ぽたりとベッドに落ちていく。
「う、」
「……A」
名前を呼んで、強く抱き締める。
好きだ。
今更自覚された恋心が、どうしようもなく傷んだ。
「A……」
「な、に」
名前を呼んでもきりがない。
自分にとって彼女の存在がこんなにも大きなものになっていたとは、甚だ予想外だ。
「……あの、ね、風間さん。
私、ずっと夢を見てたの。ボーダー隊員になってから、一番怖い夢。
遠征で戦った人型が、実は過去に拐われた私の同僚──笠原隊員だった夢」
遠征で人型と接触した話は、太刀川や冬島さんから聞きましたよね。
あの子も小柄で、茶髪だったんだ。
彼女の声は段々と震えていく。
「風間さん、私、友達を殺したかもしれない」
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作成日時：2023年6月25日 21時
