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Aの前にはお盆に乗ったカレー皿と、水滴のついたコップが2つ。
お盆を避けるようにしてノートや本が散らばり、その全てが正面に座る太刀川の方に向けられていた。
「"誰かが帰って来れない"。略奪か、死ぬか、最悪可能性があるってことか」
「あんまり考えるとハゲるぞ」
「禿げないよ」
カタンとペンが置かれた音に、はっとしてAは顔を上げる。
太刀川は教科書をひとつ閉じてこちらへ手渡した。
「ん」
「早いね」
受け取るとすぐに2つ目の課題が取り出される。
この人、夜の防衛任務に間に合うだろうか。そんなことを思う。
「降りたいか？ 」
「何を？ 」
「遠征」
どうして？ Aはきょとんと太刀川を見やる。
「お前、仲間を失うと堪えるだろ」
「……」
いつもの彼のトーンが少しだけ落ちた気がした。
「自分だけ生きるのはもう嫌だからなあ……」
「うん。だから降りない」
食堂には皿を洗う音だけが残った。
12話 ページ12
Aは太刀川たちの方向をちらりと見て、肩をすくめてみせた。
煽られた本人はなぜか余裕に満ちた表情だ。
「甘いな。俺が諦めたと思っている」
「何を？ 」
「Aのレポートだ」
「またこの人は……」
「まあいい。ブースに行こうぜ」
ご機嫌な様子でずるずると迅を引っ張っていく太刀川。今日のＢ級ランク戦には後輩の玉狛第二が参戦するため、方向的に間違いはないなと迅は思った。
どこまで彼に付き合うかは未定だが。
「ねえ太刀川さん」
◇
10本勝負の9本目が終わったところで、不意に迅は口を開いた。
「今度の遠征さ」
「何だ？ 」
「誰かが帰って来れないかもしれない」
孤月を構えた手がピクリと反応した。
「お前のそういう忠告は珍しいな。"黒トリガー"か？ 」
「いや……」
言い淀んだ迅の前髪がわずかになびき、瞬間、目の前に二刀の孤月が閃光を持って現れた。
すぐさまブレード型のスコーピオンとかち合い、空気を揺らす。
「視えてたか」
「まあね〜」
お互いにへらりと笑い、崩れた体勢を整える。
「ま、Aさんが狙われなければ大丈夫だと思うよ」
「──だそうだ」
「ほんっと太刀川さあ……」
Aはカレーを雑にすくって、ため息をついた。
「そんなこと私に言ったら迅くんが困るでしょうが」
「ちょっと待て、問3が長すぎるんだが？ 」
付箋のついたページをテーブルに広げてトントンと指を叩く。
彼の手は黙々と書き取りを始めた。
午後の講義が始まった時間帯。ピークを過ぎた食堂はがら空きで、窓際の横長テーブルを占領できるほどだった。
Aの前にはお盆に乗ったカレー皿と、水滴のついたコップが2つ。
お盆を避けるようにしてノートや本が散らばり、その全てが正面に座る太刀川の方に向けられていた。
「"誰かが帰って来れない"。略奪か、死ぬか、最悪可能性があるってことか」
「あんまり考えるとハゲるぞ」
「禿げないよ」
カタンとペンが置かれた音に、はっとしてAは顔を上げる。
太刀川は教科書をひとつ閉じてこちらへ手渡した。
「ん」
「早いね」
受け取るとすぐに2つ目の課題が取り出される。
この人、夜の防衛任務に間に合うだろうか。そんなことを思う。
「降りたいか？ 」
「何を？ 」
「遠征」
どうして？ Aはきょとんと太刀川を見やる。
「お前、仲間を失うと堪えるだろ」
「……」
いつもの彼のトーンが少しだけ落ちた気がした。
「自分だけ生きるのはもう嫌だからなあ……」
「そうか」
「うん。だから降りない」
食堂には皿を洗う音だけが残った。
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作成日時：2023年6月25日 21時
