天満月-amamitsutsuki-《ars》 (ページ7)

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赤の夢ページ7

風が髪を揺らす。
1ヶ月ぶりだろうか、ここに来るのは。
合鍵は持っている、けれど。
手が震えてどうしても鍵穴にさせなくて、そのまま階段を上って…
この場所も彼が教えてくれたのだった。

眼下には何処までも何処までも光の海が広がっている。
肌寒い夜だ、空にも重い雲が垂れ込めていて、月など見えそうもない。
その知らせを受けて飛び出した空も、今日のように幕が掛かったように暗かった。

引き寄せられるように、屋上の柵に近づく。
体が震える、でも今はそれさえもどうでもいい。
「どうしたら、」
喉から、震える声が漏れる。
「どうしたら…貴方に会えるの」
格好悪い。他人事のように思う。
指が、ひんやりとした鉄柵に触れる。
堪えていたそれが、雲間から顔を出した満月の光を受けて一瞬輝いた。

___泣かないで。
「え、」
「泣かないで」
細くて綺麗で、大好きだった指が、するりと頬を撫でる。

.

.

「さ、としくん…どうして…」
ふんわりと微笑んだ車掌姿の彼の後ろに、大きな満月が輝く。
「来るつもりじゃなかったのになぁー…」
彼の笑顔が寂しそうで、儚げで、またすぐに消えてしまいそうで。
「翔くん高いところダメなのに、柵に近づいていくから…変なこと考えてるのかと思っちゃった」

なぜ急にいなくなったの。
なぜ死んでしまったの。
…もう、行かないで。
言いたいことは幾らでもあるはずなのに、どの言葉も相応しいとは思えない。
「ありがとう」
ようやく絞り出した声は、涙に掠れて濡れていた。
「うん」
分かってる。
彼が静かに頷く。

「行っちゃう、んだよね」
「うん」
「そっか」
並んで空を見上げる。
初めて出逢った時と、あまりにも似た風景が広がっている___。