隣の音色 ページ2
side綴
「ん〜っ！」
部屋でレポートを書き上げ、長時間同じ体勢をしていた自身を解放しゆっくりじっくり伸びをする。書き終わった瞬間保っていた集中力が全部切れ、今日はここまでにしようと部屋を出た瞬間だった。
「ピアノの音…？」
カンパニー内ではない、何処か別の所から聞こえてくる音…ピアノの音だ。一体何処から聞こえるのだろうか。中庭の方へ足を運ぶと洗濯物を取り寄せようとしていたのか、物干し竿の近くで監督と支配人が隣の家の方向を向いて佇んでいた。
「監督、支配人、何してるんすか？」
「あ、綴くん！お隣さんからピアノが聞こえてきたから、ちょっと聞き入っちゃって」
「お隣さん…いつも聞こえてきましたっけ？」
「普段はこっちが賑やかいので聞こえない事が多いですね。まぁお隣さんもお仕事されてるので、毎日弾いているってわけじゃないんですけど」
「あ、そうなんすね」
どうやら聞こえてきたピアノの音は、隣家から聞こえてくるもののようだ。普段聞こえない程賑やかって、俺達どんだけうるさいんだ。心当たりのある劇団員を頭に浮かべ呆れたのも束の間、聞こえてくるピアノの音にまた耳を傾ける。繊細に奏でられた音色は、会った事無い隣人の人柄を無意識に想像させた。
「いやぁ〜、今日も素敵なピアノだ。また亀吉と一緒に行こうかな〜」
「随分仲が良いんすね？」
「長くお隣さんやってますからね！Aさんていって、すごく綺麗な方なんですけど話すととっても可愛いんです！マイナスイオンを浴びれると言いますか！」
「ななしさん…いつか会ってみたいです！」
「ピアノも上手いですけど、他にもいろんな楽器も弾けるし作曲も出来るんです！あとうちの劇中音楽も作ってくれているんですよ〜！！」
「「……は？」」
ちょっと待て、今この人すごく重大な事を口にしなかったか？隣にいる監督と顔を見合わせ、ぽわぽわと花を飛ばしている支配人に向き直る。
「支配人、それいつ決まったんですか…？」
「え？この前買い出し途中に会って、春組の旗揚げ公演の話になったんです。人数が少ないから裏方の心配をしてくれて、手伝える事があったら声かけてって言ってくれたので、お言葉に甘えて劇伴をお願いしてみたんです！快く快諾してくれましたよー！」
「ちょ、それそんな軽いノリで進めちゃ駄目なやつっす！」
「そういう大事な事はもっと早く言ってくださいー！！」
(出会う前のお話)
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作者名：渡邊 | 作成日時：2019年8月16日 12時
