梅雨 ページ40
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「雨、か…」
怒涛の5月から月を跨ぎ6月になった。今年の梅雨入りは早く、放課後の図書室から見上げた空からは雨がしとしとと降っていた。
今朝の天気予報では、昼間は曇りマークしか出ておらず、酷くなるのは夜かららしいので傘を持ってきていない。万が一降ったとしても自分の机の横に折りたたみ傘が掛けてあると思って敢えて持ってこなかったのだ。その結果がご覧のとおり。雨を見上げながら、最悪少しでも弱まるのを待つ事にした。
「八神さん、もう図書室閉めるわよ。早く帰りなさい」
「あ…はい」
図書委員担当の先生が出入口から声をかけてきた。いつまで経っても図書室の鍵が戻ってこなかったから様子を見に来たのだろう。渋々図書室を施錠し、鍵を先生に渡す。さようならと挨拶を交わし、私は下駄箱へと向かった。
*
「まぁ、止むわけないか…」
図書室から昇降口までの間で奇跡でも起こらないかと思ったが、そうはいかなかった。寧ろ強くなってきている雨を見て、図書室で眺めてる暇があったならさっさと帰ればよかったと後悔した。
下駄箱に背を預け、同じように雨を眺める。屋外の運動部は生憎の雨で中止、中には校内で筋トレやミーティングをしている部活もあるようだが、ここから生徒の声は聞こえない。もしかしたら既にみんな帰っているのかもしれない。
「む…八神?」
「…あ」
声がした方を向くと、同じクラスの真田がいた。元々話す機会がなかった私達は、屋上の一件があった後も以前と変わらない距離感を保っていた。
「そこで何をしている?」
「何って…雨が止むの待ってる」
「傘を忘れたのか?」
「うん」
「…たるんどる!」
え、なんか怒られたんだけど。つかたるんどるってなんだ。中学生が使う言葉じゃないと思うんだが。彼の言葉に固まっていると、真田はいきなり慌てたような素振りをし、軽く咳払いをしてから自分の鞄を漁った。出てきたのは黒い折りたたみ傘だった。
「これを使え。今日はこの後が酷くなるようだからな」
「え、悪いよ。真田が濡れて帰る事になるし…私の事はいいから」
「俺は普通の傘を持ってきている。これは使わん」
半ば無理矢理に折りたたみ傘を渡され、真田は傘置きにあった自分の傘を差して帰って行った。去り際に「ではな」と聞こえ、呆気にとられながらもなんとか「さよなら」と返した。どこの時代の人だよ真田弦一郎。少し時間を置き、黒い折りたたみ傘を差して雨の中を歩き出した。
(意外だな…)
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otohsun08050054(プロフ) - ヤバい!めちゃくちゃ面白いのですが!もっと早くこの作品に出逢いたかった(>_<) (2020年7月28日 9時) (レス) id: 736f999e12 (このIDを非表示/違反報告)
渡邊(プロフ) - もんたろさん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉をいただき感激です…!不定期更新ではありますが、完結までお付き合いいただけると幸いです(´ー`*) (2017年12月2日 0時) (レス) id: 2443de6131 (このIDを非表示/違反報告)
もんたろ(プロフ) - テニス部の私生活?って言うんでしょうか…それがなんだか自然体って感じですごく好きです。登場人物達の雰囲気が皆やわらかくて読んでいてほっこりします。更新頑張ってください! (2017年12月1日 23時) (レス) id: 47cdc4e065 (このIDを非表示/違反報告)
渡邊(プロフ) - 和堂 桜さん» コメントありがとうごさいます!1つの話で詰め込みたい内容が多すぎて今みたいな感じになっております…。アドバイスいただいた内容を参考にしながら徐々に改善していこうと思います!ご指摘ありがとうございました(´ー`*) (2017年11月26日 1時) (レス) id: 2443de6131 (このIDを非表示/違反報告)
和堂 桜(プロフ) - 内容は魅力的なんですが・・最初の方から、「」以外の説明?みたいなところが文字がつながりすぎて読みにくいです・・。改行?とか空白を多くすると読みやすくなるかと・・すみません!!もったいないなーと思いまして!! (2017年11月25日 20時) (レス) id: 5cbf3e7e7a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:渡邊 | 作成日時:2017年10月6日 18時