123 ページ23
・
「小食なのよ。質問がなければ仕事を始めるわ。入って頂戴。」
両開きのドアの片方を開けて中へ促され足を踏み入れると紙とインクの匂いで肺が満ちた。
天井に届きそうなほどの蔵書の数々に思わず息が漏れた。
「スマイル様は私たちを部屋に入れない。食事も部屋の前にワゴンごと置いて、時間になったら下げるだけ。掃除もさせてもらえないから図書室の管理が主な仕事と思って貰って大丈夫よ。」
間髪入れずに先輩は仕事の説明に入る。
図書室の掃除だったり、司書の手伝いをするだけでいいようだ。
手始めに返却された本を棚に戻す作業から始めるようみたいで、本が10冊程度乗ったワゴンを渡された。
「軍需関係の資料はこっちね、あと...医療関係はこっち...」
『あ、あの....』
「なに？」
『スマイル様のお付きなのに、身の回りのお世話はしなくていいのですか？』
こちらに首を向けた先輩へずっと突っかかっていた疑問を投げかける。
すると先輩は今日見た中で初めてだとうかがえる表情というものを顕わにした。
まぁ、少し眉間に皺を寄せる程度だったけどね。
「頑なに部屋に入れてもらえないもの。世話も何もないわ。」
『以前からそうだったのですか？』
先輩はゆったりした動作で首を横に振る。
「いいえ、以前は他の色付きと同様の仕事内容だったわよ」
『......そうなったきっかけとかはご存じですか？』
そう質問を投げかけると、先輩はスッと私の前まで近寄って耳元に顔を近づけた。
「あなた、君主様の様子が可笑しいとは思わないの？」
『え？あぁ、まぁ...』
「そうでしょう？暗殺未遂も以前より頻発してるしそんな状況の中で平然と過ごせると思う？」
私の傍から離れた先輩は本を一冊手に取り棚に戻す。
その姿をただ眺めていると彼女はこちらを向かずに独り言のように呟いた。
「自分を守りたくなるのが普通でしょうね。誰が敵か味方かもわからないし
下手すると君主様だって味方とは限らないじゃない
触らぬ神に祟りなし。知らぬが仏。スマイル様は現状をどうにかする気はないんじゃないのかしら？」
『なんか、君主様がどうなってもいいみたいな言い方ですね』
「えぇ、少なくとも私はどうだっていいわ。時代は常に進化して最適解を探してる。
それに順応して少しでも長く生きれればそれでいいもの。」
淡々と彼女は言う。
どこか異質なその瞳はただ目の前の仕事だけを見ていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 686人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そらと。(プロフ) - べあー。さん» コメントありがとうございます！楽しんで頂け光栄です！！更新頑張ります✨影とは言わずゴリゴリ前面で応援してくださいwよろこびますw (2022年4月29日 0時) (
レス) id: bc516da084 (このIDを非表示/違反報告)
べあー。(プロフ) - 初コメ失礼します、！主様の作品とても好きです…。見る度にドキドキするようなストーリーで最高…これからも更新頑張って下さい！陰ながら応援させていただきます。 (2022年4月28日 21時) (レス) @page50 id: 17a9fb7c09 (このIDを非表示/違反報告)
そらと。(プロフ) - 睦月凛月さん» コメントありがとうございます！！とても嬉しいです！！表現褒めて頂けて光栄です✨更新頑張ります！ (2022年4月15日 17時) (レス) id: bc516da084 (このIDを非表示/違反報告)
睦月凛月(プロフ) - 最近読み始めたばかりだったのですが、世界観や設定が面白くて手が止まりません...!!!特に文章表現が美しく一瞬で惹き込まれました！これからの展開が楽しみです！応援してます！ (2022年4月15日 1時) (レス) id: 7b0725ea3a (このIDを非表示/違反報告)
そらと。(プロフ) - 仇花さん» えええ！！！嬉しいです！！！Twitterの名前はソラヌンティヌス@そらと。でアイコンは真っ白に縦書きで文字書いてます！！！@sorato_0720です！！！！ (2022年4月13日 15時) (レス) id: bc516da084 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そらと。
| 作成日時：2022年3月27日 22時
