14 ページ14
.
『お茶をお持ちしました』
そう簡単に告げるとカチャン、とドアのカギが解除される音が近くで聞こえた。
ゆっくり扉を開いて中に入ると、豪華さは変わらないが比較的シンプルな部屋の奥に執務用の大きいテーブルがある。
そこに人が座って忙しなくペンを動かしていた。
私が入ると奥の人物は顔を上げる。
パンダの顔の付いたフードを被った彼は想像よりも幼い印象を受けた。
長い前髪は片目を隠し、少し暗い雰囲気を纏っている。が、何よりも光のない浅葱色の瞳が何者も寄せつけないような鋭い視線をしていて少し足が止まった。
na「.......誰？」
至極真っ当な質問が飛んでくる。
余計に鋭さを増した瞳が私を射抜くも頑張って逸らさずに用件を頭の中で反芻し、そのまま告げる。
『A、と申します。
先ほどNakamu様へお茶を届けようとしたメイドが体調不良により倒れているところに出くわし、どうしてもこの部屋へ行きたそうにしていた彼女の代わりに事情を説明しに参りました。』
na「ふうん。じゃ、君でいいよ。そこにあるティーセットで俺にお茶淹れて」
おかしい。身元も知れない平民にお茶を淹れさせる？どういう了見だ？
考えるよりも先に早く、と目線で訴えられてしまい疑問を整理する間もなくティーセットと向かい合う羽目になった。
『この茶葉......』
na「何？」
『いえ...いい茶葉だと思いまして...』
na「...そういうの分かんない。」
勿体ないな。まあ、湧き水のように飲んでればそんな感想にもなるか。
流石は国のトップの飲むお茶だ。香りが違う。それにこの茶葉は恐らく....
『聞き流していただいて構いませんが、こちらの茶葉はダージリンの“セカンドフラッシュ”です。』
na「........セカンド？」
『ええ、そうです。二番摘みの葉で作られた茶葉です。
5月〜6月に収穫時期を迎え、ファーストフラッシュよりも香りや味が強いのが特徴です。
少し渋みがありますが.....』
考えるまでもなく、手順も時間の間隔も体に染み込んだまま、ただ優しい香りに満たされた空間で白いカップを満たす水面を想像する。こんな状況でなければもっと香りを楽しみたかったのに。
水色の帯に白い模様が付いたカップに濃い目の褐色が注がれる。
注がれたそれをNakamu様の前に差し出す。
『そのマスカットを彷彿とさせる香りから“紅茶のシャンパン”と呼ばれております』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1099人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wt」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
そらと。(プロフ) - 天音さん» あら、それは運命ですかね、、、また見つけてくれてありがとうございます。頑張りますね！ (2022年3月4日 7時) (
レス) id: bc516da084 (このIDを非表示/違反報告)
天音(プロフ) - まだログインもしてなかったし、お気に入り登録とか知らなかった。そんな昔にみたお話...、のはずなのにまた見つけられた...？！このお話はおもいでの作品のうちの1つです。無理せず頑張ってくださいね！！！ (2022年3月3日 0時) (レス) @page9 id: 511b9233eb (このIDを非表示/違反報告)
そらと。(プロフ) - 狛犬さん» フォローありがとうございます！！ (2021年11月17日 18時) (レス) id: bc516da084 (このIDを非表示/違反報告)
狛犬 - お手数かけてすみません！アカウント名は「狛犬 @nTdKEqUijhOcqHZ」です誤字ってたらすみません！ (2021年11月16日 18時) (レス) id: 0666cd5f1f (このIDを非表示/違反報告)
そらと。(プロフ) - 狛犬さん» うーん、、、一応私のプロフにもHPの欄にURL載せてるのでそこから飛べなかったら私がお迎えに行きますのでユーザー名など教えて頂けると嬉しいです！ (2021年11月12日 17時) (レス) id: bc516da084 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：そらと。
| 作成日時：2021年9月20日 3時
