Episode157 ページ8
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「早かったじゃん」
米屋は振り返らずに、やってきたその人物に声をかけてイスから立ち上がった。私はそいつを見て目を見開いた。
「い、ずみ……？」
ぽろりと声が出た。出水はその場から動かないで、返事もしなかった。肩で息をしながら、その瞳の奥に私を捉えている。
「オレが呼んだんだよ。じゃ、オレ帰るわ」
米屋はそのまま扉の方へ歩いて、出水の肩にぽん、と無言で手を置いて去った。出水はしばらくしてから扉を閉めて、私のベッドに近づく。
「……よ、」
「……よー」
先に出水がぎこちない挨拶をしてきて、私も短く返す。出水は頭を掻きながらさっきまで米屋が座っていたイスに腰掛けた。またしばらく、黙る。出水はきっと言葉を選んでいるし、私も何から話せばよいのか分からずにいる。
「……すげー、」
ゆっくり出水が口を開いて、私の片手を握った。びっくりして私の手はぴく、と動く。出水の手のひらが私の手を優しく包み込んでくれた。
「すげー、心配したんだぞ」
ぎゅっと握る力が強くなった。
「……うん、ごめん」
「バカ、ありがとうだろ」
「はは、そっか」
やっと出水が私の目を見た。
「ーーおれ何もしてやれなかったよな」
出水は握っている私の手に視線を落として、その言葉も一緒に落とした。「そんなことない」と私が返しても、出水は首を振る。
「太刀川さんはお前が崖から落ちた時真っ先に行っただろ。最後にお前運んできたのも迅さんだったし。お前すげー危ない目に遭ってたのに、おれ行ってやれなかった。……ごめんな」
こんなに苦しそうな出水の顔、初めて見た。
こんなに苦しそうな出水の声、初めて訊いた。
私は何も言えなくて、ただ黙って首を横に振る。
「！」
すると出水が、握っていた私の手を自分の頬に持って行った。自動的に私の手のひらは出水の頬に触れる。出水のその行動には、私がちゃんと生きていると証明したがっているような想いがこもっているような気がした。
「はー、マジで生きててよかった」
言い切って緊張がとけたように、出水は下を向く。前髪で隠れたその顔は見えない。
「つか米屋の奴、病室来いってだけラインしてきたんだけど理由つけて話せねーわけ？」
出水のテンションがいつも通りに戻る。米屋からの連絡が簡潔すぎて、出水は訳が分からないままここへやって来たらしい。
「急に言われたからお前死んだのかと思ったわ」
「だからあんなに走ってきたの？」
「悪いかよ」と出水が言って、病室には笑い声が響いた。
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亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います！！すごく嬉しいです……！こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました！ (2022年5月29日 1時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして！作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます！お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります！見落としておりました;;なおしてきます！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、（親友）の場所が（旧友）になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは！つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております！ (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：亜桜 | 作成日時：2019年2月10日 13時
