Episode183 ページ34
太刀川side
『ーー太刀川隊を、抜けます』
それを訊いて、頭が働かなくなった。何度も剣を交えてきたこの場所でなら、戦いの中でなら何か伝えてやれるのではないかと思ったが、何かを伝えるのは、どうも難しい。
「辞めたきゃやめればいい」
あいつが個室を立ち去ったあと、独り言のように零れたのはそれだった。ただ、その言葉だけが、落ちた。
『ーー太刀川さんッ』
『亜桜ちゃんいなくなっちゃうなんて嫌だよ！』
絞り出したような、何かを必死で殺しているような、そんな出水の声。俺がおまえにそうさせているのか？国近も珍しく大きな声を出して、これも俺のせいか。
こいつらの態度を見ていれば、言葉の選び方を間違えたことは認めざるを得ない。
けれど仮に今俺達が甘やかしてしまえば、いずれ苦しむことになるのはAだ。時間が経つほど戦えていたころの自分とのギャップに辛くなる。斬れなくなってからの時間が長ければ長いほど、戦いの感覚を忘れていく。
『そろそろ、訊いてもいいっすよね』
次に訊こえたのは、京介の声だった。
『遠征で何があったのか、俺にちゃんと話してください』
俺達が帰還した日も、何があったのかと京介は訊いた。けれどまだ目覚めないAの話をするのは違うと思って、俺は、あいつが目覚めてから話す、と答えた。
『太刀川さん、』
「帰る」
国近の声を遮って俺はランク戦ブースから去った。
他に、どうすればよかった？当然守れなかった俺にも責任はあると思っている。あの時お前が一人で戦うと言ったあの女のネイバーが、お前の親友だったのだろう。気付いていたが、お前なら必ずけりをつけて帰ってくるだろうと信じたのだ。
「太刀川さん」
自販機。俺がガシャンと買った缶コーヒーを手に取ると、背後からそう声がした。俺は振り返らないでその人物の名前を呼ぶ。
「ーー迅」
このタイミングは、何だ。
「……どこまで見てた」
俺はベンチに座って、そいつに問う。今度はそいつが自販機に金を入れてボタンを押す。ガシャン、と缶が落ちた。
「ーー見えてたよ、“ぜんぶ”ね」
それは遠征に行ったらあいつが斬れなくなることも、そして太刀川隊を抜けると言うことも、それも含めた全部なのか、それともまだこの先を含んだ全部なのか。
「何であいつを遠征なんか連れてったんだ」
「……その方が、いい未来に繋がるからだよ」
迅は買った缶ジュースを手に取って、そのまま俺に背を向けて歩いていった。
「……クソ」
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亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います！！すごく嬉しいです……！こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました！ (2022年5月29日 1時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして！作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます！お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります！見落としておりました;;なおしてきます！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、（親友）の場所が（旧友）になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは！つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております！ (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：亜桜 | 作成日時：2019年2月10日 13時
