Episode164 ページ15
迅side
この病室から、出て行けと。そう怒鳴られる未来も見えていた。おれと彼女は今日で終わりかもしれないとさえ、覚悟して今日ここに来た。でもそれらの未来は、単にそれを恐れるおれの精神状態が見せた幻だったのかもしれない。彼女はトンと優しくおれの胸に拳を置くだけだったのだから。
何もかもを押し殺したようなその拳は、痛みなどなかったがずっしりとおれの心に何かを訴えかけた。
「それ言ったらどうなるか見えてた上で、来たんですよね」
「……そうだよ」
そうだよ、Aちゃん。おれは君に残酷なことを伝えて、怒りの標的になろうとして来た。全部おれのせいにしていい、と思って来た。君を傷つけた、一生消えないものを植え付けた。その全責任がおれにある。
「………」
彼女は黙って、それから深呼吸をした。
「じゃあ、もう何も言いません」
「え、？」
「あなたの予知を覆したくなりました」
『お前の予知を覆したくなった』
彼女がその言葉を発した途端、ぱち、と遙か遠い未来の一場面が見えた。どんな状況なのかも何も見えなかったが、その言葉を太刀川さんが発する場面だけが見えた。どんな状況で言ったんだ、このセリフ。
「……迅さんは、悪くないです」
彼女はおれの予知から外れた道を歩み出した。おれは彼女が今回持ち帰ったそのトリガーがどういう経緯で手に入ったのかまでは知らないが、そのトリガーが誰かの命と引き換えにしか生まれないということだけは知っている。だからAちゃんの心的外傷はすさまじいことだろうに、それを予知した上で遠征に彼女を同行させたおれのことが、憎くないのか？
「全部私が招いたことです。奈那のことだって、もっと何か方法があったはず、組織の奴らが来る前にどうにか出来たはずなんです」
彼女の苦しみを少しでも理解したいと心の底から思った。いつか、その痛みを話してもらえるような存在になりたい。
「だから、これは全部自分で選んだ末の結果で、迅さんのせいじゃないです」
おれは何を言わせているのだろう。彼女もまだ冷静さを取り戻してはいないだろうに。おれより彼女のほうがずっと大人だった、ということか。
「迅さん」
「他人の人生まで背負う必要ないんですよ」
「……！」
とても切なそうな顔をした。彼女が。自分の方がもっと痛いはずなのに、おれの痛みを自分の事のように感じて、おれを理解しようとして。彼女のその発言に、おれは暑い夏の日を思い出した。
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亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います！！すごく嬉しいです……！こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました！ (2022年5月29日 1時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして！作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます！お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります！見落としておりました;;なおしてきます！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、（親友）の場所が（旧友）になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは！つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております！ (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：亜桜 | 作成日時：2019年2月10日 13時
