Episode163 ページ14
.
十二月二五日。世間で言うクリスマス。まだ退院していない私は、この日を病院で迎えた。
「メリークリスマス、Aちゃん」
「！」
病室へ戻るとそこにいた人物に、目を丸くした。
「久しぶり」
「……迅さん」
「ちょっと話せる？」
「断らないって見えてたから、来たんですよね」
声の主は迅さんだった。目覚めてから一度も見舞いに来なかった迅さん。太刀川さん曰く目覚める前にも一度も見舞いに来ていないという迅さん。その癖に、私の自宅へ赴いて両親に謝っていたという、迅さん。病室に入って来ておいて、問うてくるこの人は卑怯だ。
「具合はどう？」
「年明けには退院出来るそうです」
「そっか」
また、静かになる病室。しばらく経ってから口を開いたのは、私だった。
「消毒液の嗅いが、しないんです」
「ーーうん」
これから話すことが見えたのか、彼は何も訊かなかった。
「ぼそほぞ声が聴こえるんです、大勢の」
「うん」
「瞬きするみたいにぱちぱち色んなものが視えるんです」
「……ごめんね、Aちゃん」
私は彼の顔を見上げた。本当は、迅さんは悪くない。けれど今の私は完全に迅さんのせいにすることで逃げようとしている。私が背負ってしまった、大きな影から。
「……どこまで見えてたんですか」
切なそうに笑う迅さんの顔があった。
「……おれはね。Aちゃんが何かと決別して、自力で帰ってくる未来と、そこで死ぬ未来が見えてた」
目を見開いた。あの時、私は本当に死ぬ危険があったのだと。
「どんな結果になろうと、おれたちが、Aちゃんが持って帰ってきた“それ”を手に入れられる未来も、ね」
「……！」
迅悠一は優しくない。
何故なら今、私が生きようが死のうが、“これ”を手に入れられる未来が分かっていた、と言うのだから。それはつまり、それは、
「どうして言ってくれなかったんですか！遠征に行くなって……！」
「ーー今のAちゃんなら、“それ”がどんなに大きな力を持ってるか、分かるでしょ」
私はあの遠征で身をもって、その力を実感した。絶対にノーマルトリガーでは生存できなかったから。それが意味することくらい、分かる。分かるけれど、迅さん。
……トン、
「ーーA、ちゃん？」
殴られるとでも思ったのか、迅さんは拍子抜けしたような声を出した。
トン、トン
私は数回、拳を彼の胸に当てた。ぎゅうっと、血が滲みそうなほど強く握りしめたその拳を。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 484人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います！！すごく嬉しいです……！こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました！ (2022年5月29日 1時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして！作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます！お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります！見落としておりました;;なおしてきます！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、（親友）の場所が（旧友）になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは！つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております！ (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：亜桜 | 作成日時：2019年2月10日 13時
