モノクロノイズ。４【ワートリ】

Episode155 ページ6

Aside



長い、夢を見ていたような気がする。ボーダーに入ってからの楽しかった毎日のことだ。みんなが優しく私に声をかけた。太刀川さん、出水、柚宇さん、京介、米屋、三輪、宇佐美ちゃん、奈良坂、犬飼先輩、二宮さん、カゲ先輩、佐鳥、小南、迅さん。


みんな、ボーダーで出会った大切な人達。


そのあとは、ボーダーに入る前の、退屈な日々の夢。気付いたら米屋とばかり一緒にいた。別にクラスにも興味は無かったし、つまらない毎日をそれなりに過ごしていた夢。


夢、と言うより記憶なのかもしれない。


最後は、小学生の時の、無邪気な私の夢。それはある日転校生がやってくるところから始まった。席が前後で友達になって、一緒に過ごす時間が増えて。二人で遊びに行ったり、家に泊まったり、初めて親友ができた。今日も、髪の短いあいつが私を呼ぶ。


『A！グラウンド行こ！』


何を言っているのだ、今は冬だ。寒いし、私は室内で遊ぶ方が好きだ。


『教室で一緒にトランプでもしよーよ、奈那』


旧友……


.


デジタル時計が指すのは、十二月も中旬になった日付と時間。

声が出なかった。

ただうっすらと目を開けて、天井と見つめあった。いつもならひどく感じるはずの消毒液の嗅いを感じなかった。ゆっくりと上半身を起こす。冷たい指先を動かしてみると酷く反応が鈍いような気がして、まるでこれが自分の体ではないかのような感覚に襲われる。


「！」


次に目に入ったのは、ベッドの隣に置かれたイスで、壁にもたれながら腕を組んで眠っている人。


「太刀川さん……」


出なかった声が出た。その人を見るとあの光景を思い出した。遠征に行って、急に敵に襲われて、崖の下に落とされて、奈那と戦って、奈那を……


「……っ、……っ」


涙が止まらなくなって、ぽつぽつと手の甲が濡れた。


「ーーA」


低い声で名前を呼ばれて顔を上げると、ふわっと包み込まれた。暖かくて大きくて、どうしようもなく安心した。息を吸ってみると、自分はまだ生きているぞと細胞に通告されたような心地がする。


「このまま目覚めなかったらどうしようかと思った」
「……太刀川さんて、恥ずかしいこと普通に言える人ですよね」


ふは、と自然と私が笑うと、そのまま太刀川さんが優しく頭を撫でながら「そうか？」なんて言って、私から離れた。


「今親御さん連れてきてやるよ、心配してたから」
　

はい、と言うと太刀川さんは病室から出ていった。

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