Episode188 ページ39
太刀川side
『忍田さん : 屋上に行け』
この人はエスパーか何かだろうか、と思いながら、俺はメッセージの通り屋上に向かった。行けば見慣れた茶髪がそこにいた。前より少し痩せた。そういえば出水と違って制服ではなく、私服だ。髪もいつもと違っておろしている。
「A」
呼ぶと、そいつは振り返った。ぶわあと吹いた風に揺られた茶髪が、緑色の瞳をちらりと見せる。それは以前のような迷いと葛藤と痛みを宿した色ではなくて、何か決意したあとのような、生きる力を再び得たような色だった。俺ではない他の誰かがAにとった行動がそうさせているのだと、瞬時にわかる。
「たちかわさ、」
「悪かった」
俺は、そいつに頭を下げた。そうするとまた小さく俺を呼ぶ声が訊こえた。
「このままお前が斬れないままだったらどうしようって思ったら、言葉が止まらなくなった。お前の気持ちとか考えなさすぎたって思う」
言い終えて、俺はその冷えた頬に手を添えた。俺は、Aが戦闘員として死んでしまったらと考えたら不安になって、手遅れになる前にどうにかしなければと、何かに急かされたように焦っていた。
「俺はお前に、生きて欲しかったんだよ、今まで通りの亜桜Aとして、戦闘員として、太刀川隊として、」
「太刀川さん」
ぽん、ぽん、と喋り出すと止まらなかった俺の口が、その一言でぴたりと止まった。
「分かってます。傷つけたいんじゃなくて、私のために言ってくれてたんだってこと、分かってましたよ。ちゃんと」
それでも逃げ出してしまったほどその時の自分は弱っていた。そうAは加えた。頬に添えた俺の手を、上からそいつが優しく触る。そして少し経ったあとにAはゆっくり俺の手を離させる。
「……それでも、辞めたいのか」
その顔から何かを悟ってしまった俺は、そう問いかけた。その顔が、傷付いて逃げ出したくて「太刀川隊を辞める」と言い出した以前とは、全然違ったから。
「私は、まだボーダーとして死にたくない、これで終わりにしたくない。だから、前を向くために、ーー太刀川隊をやめます」
微笑んだ。枯れかけた花が、再び水を得たように。
「ーーそうか」
いつか、またあの頃のように咲き誇るこいつの姿を見られるのなら。俺は希望のためにこいつが選んだ道を、否定する権利はない。
「太刀川さん。私をボーダーにしてくれて、ありがとうございました」
ああ、俺のほうこそ。
太刀川隊になってくれてありがとう、A。
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亜桜(プロフ) - サクラさん» はじめまして、コメントありがとう御座います！！すごく嬉しいです……！こちらこそ数ある作品の中から見つけて下さりありがとうございました！ (2022年5月29日 1時) (
レス) id: 8ae19fe800 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ(プロフ) - はじめまして！作品一気に読ませていただきました。後半ボロ泣きしながら読みました。素敵な作品をありがとうございます！ (2022年5月24日 1時) (レス) @page50 id: 99a13ff01b (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - ペコの助さん» こんばんは、コメントありがとうございます！お言葉だけで大変光栄です。ありがとうございます。そしてご指摘大変助かります！見落としておりました;;なおしてきます！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 4e05bff474 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - 最後に非常に申し訳ないのですが、（親友）の場所が（旧友）になっていて変換ができていません。意図的でしたらすみません。頑張ってください！ (2022年2月8日 2時) (レス) id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
ペコの助(プロフ) - こんばんは！つい先日、この作品に出会ってから一気に読み進めてしまいました。心理描写諸々、とても素敵で何回も読んでいます。本当は単行本、購入したいのですがまだ、親の目があり難しくとても悲しいです....。これからも応援しております！ (2022年2月8日 1時) (レス) @page50 id: 28c825c318 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：亜桜 | 作成日時：2019年2月10日 13時
