【WT】ペーパー・ムーン【メモ帳】 (ページ31)

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kn「シャケ目ェ覚ましたって。過労と軽い貧血。これからタクシーで帰ってくるってさ」

『もう？！』

kn「このご時世だから仕方ないね、まあシャケにはしばらく家で安静にしてもらわないと」

『……』

きりやんからの電話を終えて、きんときが安堵のため息をつきながらスマホをポケットにしまう。

ただ、これからシャークんが帰ってくると聞いて少し落ち着かないAに、きんときは誤魔化すように頭を掻いてから、思い切って口を開ける。

kn「Aさ、いまシャケと別居中なんだっけ？ ……俺が言うのも何だけど、アイツあれだわ。Aちゃんが居ないと何も出来ないヤツだ、絶対。そりゃ倒れるって」

『……』

kn「……いや、ごめん。Aを責めてんじゃなくてさ。シャケとどうするかはAの自由だし、俺が何か言えた義理じゃないんだけどね。

　でもやっぱシャークんの友達としては、アイツがこんなんじゃ、やっぱAにはシャークんの隣に居てあげてほしいなって言うか、……うん。アイツはダメだわ」

色々と言い淀んだ挙句、きんときはバッサリそう言った。
A自身、こんなになるまでシャークんを放置してしまった自分が許せないでいる。

パソコン横の、飲み掛けでほったらかされたエナドリの缶から漂う独特な甘い匂いが、部屋を満たしていた。

***

kr「肩貸す？歩ける？」

sh「そこまで重症じゃねえ」

街並みに沈む太陽が赤く照らすマンションの前でタクシーを降りれば、シャークんのふらつく足元を見てきりやんが腕を掴む。

カードキーを通してエントランスを過ぎ、エレベーターで居住階に辿り着けば、玄関ドアを開けてきんときが顔を出す。

kn「おかえり〜、きりやんもお疲れ」

そこで待ってくれていたのはきんときだけで。……Aの姿は、どこにもなかった。

きりやんから聞いていた分、てっきりAも家で待ってくれているものだと思っていただけに、その事実は心に空いていた大きな穴から体が真っ二つに割れそうなほど大きなものだった。

これは、もう、どうしようもない。修復のしようがない。……とっくにAから愛想を尽かされていたのだ。

そう直感して納得してしまった自分自身のことが、一番、恨めしかった。