【WT】ペーパー・ムーン【メモ帳】 (ページ13)

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『スマイルさん！』

sm「よぉ」

Aと俺は、……正確には“俺達は”だけど。仲良くなった、と、思う。

泣き腫らした顔しかみてなかった俺が普通に笑ってるAを見て、Aを好きになるのは、呆気ないくらい簡単だった。

同じくらい呆気なく夏もやって来て、気温もぐんぐん上がっていく。

キャンパスの芝生の庭や打ち水は、湿度を上げるだけで蒸し暑いくらいで。追い討ちを掛けるように蝉が鳴き始めれば、7月を直前に真夏は完成していた。

sm「いま何読んでんの」

『エミール・シオランです。初期の方の』

sm「チョイスがエグい」

『スマイルさんに似てますよ、この人の著作』

sm「俺なんだと思われてんの」

Aは俺と真反対に見えて、本質は同じだった。

独りの時間が好きな、哲学を専攻してる偏屈。
“あの”事件も同じ。友達から無理矢理連れてかれて、「Aも男を知れば変わると思った」なんて言い訳されて。まぁそいつらとは縁を切ったらしい。

俺はまあ、無理矢理連れてかれなければこうしてAと会うことも無かったし、今ごろAは取り返しのつかない傷を負っていたかもしれないと、不可逆的に見て行って良かったと思ってはいる。

『それより怪我はどうですか？本当にごめんなさい、……スマイルさんの顔に、』

sm「なんでAが謝るわけ？大したことないし。……俺は、Aの顔に傷がつかなくて良かった」

『……！』

Aの顔が赤いのは、予報より高くなってる気温のせい。
そうじゃないと、俺は、───

誰がどこから飛ばしたか。たんぽぽの綿毛が飛んで来て、Aの髪に落ち着いた。

sm「A、髪に───」

自分の頭に伸びてきた俺の手を見て、Aがビクッと怯えたのを、俺はそれからずっと引き摺ることになる。

『あ、……ご、ごめん、なさい、びっくりしただけです』

嘘だ。

Aは、男が怖いんだ。当然だ、怖い思いをしたんだから。
そう飲み下しても、俺は、Aにとって“アイツらと同じ男性という生き物”なんだと思い知らされた。