無常によるやさしさ ページ38
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よくよく思い返して見ればあの時から鳩原は行方不明になる兆しを見せていたのかもしれない、と彼女は思った。鳩原が遠征選抜試験に落ちた話が回ってきた時には鳩原はよく資料室を利用していた。それはボーダーの隊務規定違反を起こす重罪の火種のひとつだったのかもしれないが、その真相は彼女を含め一部の人間以外誰も知らない。勿論鳩原の弟子であった絵馬も知らない話だ。
だから彼女はたくさんのコピーした資料を抱えながら泣いた自分を前に、オロオロとした後「そんなことされないよ」と不器用に頭に触れた鳩原の困った笑みが忘れられないのだ。
空閑に触発されてお金を置いて基地へ戻ってしまった絵馬を後に、空気は雨取が人を撃てない話になった。
「チカ子は人を撃てるだろ。その気になりゃ」
それまで雨取が人を撃てない前提で進んでいた空気が当真の一言で一瞬で変わった。感覚派ナンバーワン狙撃手の当真が言うとまったく見方が変わる。
年下の面倒見がよく夏目は勿論、絵馬や雨取、日浦たちの相手をよくしている当真から見たら雨取は撃てるタイプの人間だと言う。同い年で撃てなかった鳩原と比べての意見なのか。彼女には分からず穂刈から焼いてもらった肉を食べるしかなかった。
「あいつはアシストとは言えバンバン撃つし自分が撃たれるのもビビってねぇ。昨日の試合で言やメガネがカシオをぶった斬る手伝いもしてる」
「おれから見りゃあいつは充分
ひとをうちたくない、口の中でお好み焼きと一緒に噛むも当真の言葉に彼女の中には依然としてハテナが湧き続ける。
「『撃てない』じゃなくて『撃ちたくない』か……」
「同じことじゃないのか？結局は」
「全然ちがうね。0と1くらいちがう」
当真曰く、撃てない人はどこまでいっても撃てないが撃ちたくない人は追い込まれれば撃つ。
「でもそれ撃てるきっかけがない限りは結局千佳ちゃんはアシストしかできないってことじゃん」
「おまえたまにビックリするくらいキツいこと言うなァ、チカ子と仲良いんだろ？」
「たぶん……？一方通行だと嫌だからあんまり意識してなかった……」
「こかじ先輩は変なとこでエンリョするね」
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作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年2月26日 0時
