スマトラの海に沈めて ページ30
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出水はずっと良い奴だった。
彼女が避けようと毎日挨拶はしていたし、彼女が自分を苦手としているのを分かっていても彼女の分のお菓子や飲み物は買ってきていたし、彼女が好きな物や嫌いな物は烏丸や国近経由で聞き出して配慮していたし、彼女が寝落ちしていればブランケットをかけていたし、彼女の交流の幅が増えればと色々な人によろしくしてやってくれと声をかけて。出水は底なしにお人好しな奴だった。
彼女の生い立ちを知り同情している訳でもなく、純粋に善意で出水は動く男だった。それが彼女を余計苦しめた。
「おれが嫌いなのはわかるんだけど流石に理由がわかんねぇと納得もできない、つーか……分かんないんだよ。なんで嫌われてるのか」
振りほどこうと思えば振りほどける力で掴まれた手の先で、出水は困ったような顔をしていた。普通なら怒ってくれたっていいはずだと言うのに、出水は申し訳なさそうな表情を浮かべるばかりだ。
「私、先輩のこと嫌いです、ほんとは私の事嫌な奴だって思ってるのに、そうやって突っかかってくるところ、嫌いです」
「うん」
「先輩といると死にたくなるから、嫌いです。みんな先輩のことすごいすごいって言って、比べられてる気持ちになって、嫌いです」
「うん」
「先輩がやさしいからつらい、先輩が嫌なやつだったら嫌いになれたのに、先輩はやさしいから、嫌いになれなくて、自分がただの嫌なやつで死にたくなる」
ただの八つ当たりだった。全てがお門違いな八つ当たりで半分が被害妄想に過ぎないそれは、ついに出水に向いて吐き出された。
ずっと小さな声でポロポロとこぼれ落ちた出水に対する八つ当たりと同時に涙がじわじわと目頭を熱くさせる。彼女は泣くものかと歯を食いしばり視線を下に向けた。
滲む視界の先に映るのは自分と、出水の足だけだ。
掴まれていた手をふりほどく勇気は今の彼女には持ち合わせていなかった。
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作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年2月26日 0時
