知らないまま眠りなさい ページ2
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今にも泣き出しそうな顔をした彼女の手を優しく握り、視線が交わるよう顔を覗き込む。
「太刀川さんたち怒られると思った？」と問えば素直に首を縦に振る彼女に迅は笑った。彼女がボーダーに来た当時、よく木崎にこうして叱られるのを恐れていた彼女を思い出したからだ。泣き出しそうな彼女の目を見て、少し厳しい言葉の後に彼女が好きなホットケーキを焼いていたのは、木崎だった。
おれはそんなことできない、と泣き出しそうな彼女の目じりに浮かぶ涙を優しくすくうと迅は再度笑った。
「玉狛でしばらく寝てなさい。あとで宇佐美にお粥持ってこさせるから」
「でも私」
「ダーメ。Aがむりしてでもこれに出て拗らせて死にかける未来もあんだよ」
往生際が悪いのはずっと変わらない悪いところ。
言い換えてしまえば負けず嫌い。
彼女は迅の言葉に顔を上げ目を大きく開いた。自分が死ぬ可能性を示唆されたのは、迅と出会ってから初めて言われた事だったからだ。
「まだ死ねないでしょ？」
「……」
彼女は静かに頷く。
「いいんだよ、休むことはなんも悪くない」
「でも！」
「A」
「みんなが命掛けてたたかってるのに、私はずるい気がする……そんなの甘えてるみたい、わたし、」
「いいんだよ。少しくらい寝てたって。おまえが寝てる間に未来はきっといい方に傾くから。大丈夫」
迅は彼女の頭を優しく撫でると手のひらで視界を覆った。言い聞かせるように大丈夫だと繰り返し聞かせると、彼女は落ち着いたのか静かに頷いた。
ぐらりと揺れた視界の先で、未来が優しい方向に変わるのを迅は見逃さなかった。
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作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年2月26日 0時
