傷も舐め合えたなら ページ20
.
「あ、あの！」
控えめな声が彼女を呼び止めた。
くるりと振り返れば玉狛第二の雨取がこちらを伺うように見つめていて彼女は驚いた。
玉狛に行けばそれなりに話すし、可愛がっていた。雨取のことも高く評価していたから、よく荒船や当真に玉狛の後輩がすごいんだと話してはお前の後輩じゃないだろうと笑われることもあった。だが普段は雨取からは彼女に声をかけない。元々控えめな性格な雨取に積極的で社交的な彼女となれば、必然的に彼女から話しを振ったりすることの方が多いのだ。
だか今回ばかりは違う。雨取から彼女に接触を試みてくれたのだ。彼女は一瞬驚いた表情を浮かべるもすぐに締りのない顔になった。
「突然呼び止めてすみません。私、小鍛冶先輩に用があって」
「うんうん。なんでもどうぞ」
「小鍛冶先輩に不快な思いさせちゃうかもしれないんですけど、その」
「だいじょ〜ぶ、どんとこい」
「小鍛冶先輩は狙撃手経験があるってその、小南先輩から聞いて」
「ゔ、ん」
「あ、いやその！気にしてるのわかってるんですけどその、聞きたくて」
雨取は手をぎゅう、と固く結び足元を見つめたまま話を続けた。
「ログ、見たんです。小鍛冶先輩の狙撃手時代の。近距離スナイプしてるシーンが離れなくて。あのとき小鍛冶先輩はどんな気持ちだったのかなって、その気になって」
ぐるぐると雨取の中を駆け巡るのは人を撃つ覚悟のない負い目。玉狛で会う彼女はいつも優しかった。ランク戦の度に雨取の良かったところを上げては褒めてくれたし、逆にこうしたら私が相手だったら嫌だな、とさり気なく対射手や攻撃手対策の意見もくれた。目を合わせて喋りかけてくれる彼女が雨取は好きだった。優しさだけで動かない、妥協しない彼女のことを雨取は尊敬していた。そんな彼女の言葉に救われようとする自分の浅はかさに、雨取は恥ずかしくなり目をつぶった。
「……私はあの時めちゃくちゃ申し訳ないなって思ったけどヨッシャって思ったよ」
「へ？」雨取は顔を上げると彼女が笑っていた。雨取の頭をわしゃわしゃと、普段は髪型が崩れちゃうからと撫でるように撫でてくれる彼女が勢いに任せて撫で付ける。
「だって眉間に綺麗に撃ち込めたら嬉しくない？」
その言葉を聞いた雨取は「ありがとうございます」と目を細めて笑い返した。
彼女は自分が言い出すその日まで待っていてくれるようだ。ただその優しさに雨取は感謝した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1220人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年2月26日 0時
