歪【ワールドトリガー】 (ページ8)

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職人の勘ページ8

部品を修復して、薄々勘づいてきたことがある。

このトリガーを知っている。一度手がけたトリガーは忘れられない職人気質とでも言おうか。

トリガー内部のそれこそ一部分しかなかったため、元の外観を再現するには至らないだろう。
しかし、部品を組み立てていくうちに外形だけは本部基準に極めて似通ってくることに寒気を覚える。

間違いなくボーダーの誰かのトリガーなのだ。
どうしてここまで破損したのかは依然として不明だが。

そして作業開始から1日半が過ぎた頃、寺島の寒気は悪寒に変わっていた。

自身の体躯が一回りは縮んだ気のする作業の後、悪寒なんぞ感じていては生命の危機である。

体温はエネルギーから生まれる。またもタブレットからオーダーを飛ばした。

しばらくして到着した救援物資を飲み食いしながら、遠巻きに机上のトリガーを眺める。

剥き出しの部品が、蛍光灯の光を舐めとるように鈍く光っている。

最表層で存在感を放つ、最後に修復した特徴的な部品を参照にかける気は毛頭なかった。

明らかに彼女のトリガーなのだ。
命令を無視して仲間だけをこちらに送り返し、独断で任務を続行した悪名高い行方不明の自業自得な隊員。

知ってるか、お前のケースはC級隊員育成ビデオで典型的な悪行になってるぞ。

コーラの最後の一滴を吸い込み、ひと心地ついてからトリガーを優しく持ち上げる。

なぜこのトリガーがここに持ち込まれたのかはわからない。

Aが帰還したという情報は入っていない。
彼女は未だ行方不明で、これは遠征組が持って帰ってきたというのが最も説明がつく。

しかしなんらかの要因でトリガーが手放されたという事実が、彼女の身に何かあったという可能性を捨てきれなくしている。

損傷が激しいのは近界でも解析を受けたためだろうか。それとも。

わざわざこの難解なトリガーを解析したなら残念だったな、これは別注中の別注だ。全く参考にならん。

それともの方は縁起でもない。もしこのトリガーが近界で作られた偶々の産物であったなら憶測は全て無駄になってくれるのだが。

このトリガーが語る全てを否定したい。彼女は近界のどこかで生きていて、今修復したこれは全くの偶々。

解析機でスキャンした。結果は職人の勘が告げたとおりだった。