歪【ワールドトリガー】 (ページ5)

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再度トラバーチンの天井に戻る。

トリガーは手元になく、生身は泥のように重い。

未だ冴えている目を瞼で覆うが、待てども眠気はやってこなかった。

おそらく目覚めも会話もあちらが設定したはずだ。

ならばまだ何か起こしておくべき用事があるのだろうか。
何もないのならはやく眠らせてくれれば良いものを。

不満げに監視カメラを見上げる。

時間帯からして、向こう側ではやる気のない夜間職員がカップ麺か缶コーヒーでも啜っているに違いない。

そして”あいつ”対策に私の在室か否かのみのデータが送られているのだろう。

リノリウムが軋む、ふと足音に気づく。眠ることもコントロールされるとは、なんとなく情けなくて瞼を閉じた。

自発の眠りがあっても、囚人に薬剤は問答無用で適用されるはずだ。

しかしベッドの横で人影が立ち止まった時、押し出された空気が届けたのは、薄いオークモスの煙香。

ノーマルトリガーでとどめを指しにでも来たか。今のこの人ならやりかねないと薄く笑う。

なぜここへ、と言いたげなAの顔を一瞥して、忍田は表情を固くした。

「処分については追って沙汰する。それまではトリガーは収容、全日監視をつける」

まるで書類の文面のような口上は彼女の表情を色濃くするばかりだったが、いっとき何か察したように目を逸らしてから肯定の返答が返ってきた。

「異存はないか」

なぜ一隊員に対して上層部がそこまで慎重なのか知りたいですね、とAは返事がわりに顔に滲ませる。

点滴から流れ落ちる鎮静剤のせいで表情がどれほど現れているかわからないが、ここまで顕著にしておけば少なからず本部長の視界に入ったはずだった。

「トリガーは寺島隊員が修復中だ」

「え」

突然、Aの目に年齢に即した明るい光が滲む。

鎮静剤の奥から引き出された表情だ。本物であるに違いない－本物としか言えない閃きだった。

説明を求める視線に促されて、忍田は椅子を引いた。