歪【ワールドトリガー】 (ページ22)

今日:14 hit、昨日:51 hit、合計:14,641 hit

5　足音ページ22

一番近寄りがたかった場所にいる。
玉狛支部のドアは閉まっているものの、中の明かりがついていることは遠目からもわかる。今は不審者と言われても文句は言えないような場所から建物を見つめていた。

監視の目が厳しい本部で、迅と接触する気はなかった。自分が風刃を使いこなせていないこと、さらには暴走を招いていることなど知らせたくない。さらに迅以外の手に渡るというのなら、このトリガーを手放したくはなかった。

「夕暮れの独り歩きは危ないよ」

振り向く気分になれなかっただけで、後ろから近づいてくる足音には気づいていた。
ちょっとした杞憂が現実になったことで、うんざりした様にAはため息をつく。

「こういう奴がいるせいね」

肩に手を添えられて、行き先はもう決まっている。お互い視えているし読めていたこと、ふたりの間に驚きはなかった。

「今日は小南が当番の日だ」

数年ぶりの家庭的な香りに、ふと目を細める。あの子は私を見て何というだろうか。

「何も聞かなくていいの。不審者かもよ」

ドアの眼前まで行ってから急に怖気付いてきて、らしくもなく迅の背中を引いた。
すると振り向いた相貌が安心させるかのように緩んで、ふとした家族感を抱かせる。

「中でゆっくり聞くよ。それよりみんなの前なんだから換装解いたら？」

分かりきったことを、と呟いて脱いだ靴を揃えた。最後に訪れた時より明らかに増えた玄関先の靴の数に微笑ましさを感じる。

「噂の新人がいるんでしょう。まだ早い」

「別にメガネ君も遊真も気にしないと思うけどな」

「乙女心よ」

トリオン体でいる代わり、と言って迅の手に２本のトリガーを握らせる。彼は意を介した様で断りはしなかったが、複雑そうな面持ちに変わってしまった。

「預かるだけだ」

その手がそっと黒いトリガーを包み込んでいるのを満足そうに見て、Aは彼に続いて室内へ踏み込んだ。