歪【ワールドトリガー】 (ページ21)

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太刀川の孤月が一直線にAの喉元を穿つその一歩手前、風刃の残像は太刀川を切り刻んでいた。

「えぐいな」

ブースの内装が解ける。生身の太刀川はいつも通りの笑みで言ったが、Aの表情を見て彼らしくもなく少し顔を引き締めた。

「前任者が一番よく知ってるだろ」

「だから太刀川さんのところ来たんじゃん」

少し湿っぽい声なのは気のせいだろう。俺が泣かせたわけじゃない。誰のせいかと言えばそのトリガーといえば一番正確なのか。

「難しいことわかんないけど、強いならいいんじゃない」

「個人戦ならね」

それはそうだ。
個人戦なら自分ひとり勝てばいいが、実戦で団体戦は避けられない。そしてトリガーを制御できないのなら、団体の中では戦えない。

「懲り懲りだ」

「え」

そのトリガー使いとは因縁があるようで。
俺に適性がないのをいいことに人を変え時を変えいつまでも付き纏ってくる。

「じゃ。模擬戦ならいつでも歓迎する」

少し拍子抜けしたようなAを残して、ブースから出た。あいつらはお互いのことを誰よりもわかっているようで、わかっていない。だがその誤解を解くために毎回巻き込まれるのは性に合わない。

空がだんだん白くなリ始める時間のようだ。課題は先ほど徴収した迷惑料で解決した。

「寝るか」

誰かのこまごました悩み事などどうでもいい。第一、あのトリガーの外野から色々口出ししたって所詮は慰めにしかならないだろう。