悪夢 ページ18
「A！来てよ、お願いだから」
「やめろ、迅」
「だって、このままじゃ」
病室の窓辺か。二階の窓の下、迅が必死にこちらを見ている。
そのすぐ横で、最上が迅の体を押さえている。おそらくそうしなければ２階まで飛び上がりかねない、そんな様子だった。
「大丈夫だ」
「何が」
「お前は視ただけだ」
言い聞かせる様な口調、しかし幼い迅は聞く気が全くないように腕の中で暴れている。
「視たら起こるんだ、知ってるくせに」
「だからって、」
「Aー！」
さすがに外来もしまっているであろう夕暮れ、騒ぎを聞きつけた足音が複数聞こえた。やや乱雑にAの体が窓際から引き離される。
「何をしているの」
代わりに窓辺に立った看護師の声。やや振り返って尋ねる容姿はすこし昔の流行りを反映している。
「おともだち？」
うなづいたように視界が揺れた。
「すみません。明日が遠足で」
あからさまに言い訳をする男性の声だけが聞こえる。大人がいると知って、看護師も溜飲を下げた様子。
「長い時間歩ける状態ではありません。また来年？ね」
言い聞かせるような看護師の声も、迅や最上の声も鮮明な映像のように記録されている。彼女の中で重要な記憶らしい。敵国地理や人口構成等のデータではないただの日常記憶が、なぜ永久記憶の容量を消費しているのか疑問だった。
「帰るぞ」
「A、待ってるから」
二人が去るのを見届けたらしい間合いで看護師が気遣わしげに出て行った。病室のドアが滑る音、窓辺に走り寄るA、外には誰もいない。
ふと、
「A」
長い影が落ちる背後で声がした。振り返れば、いるはずのない人。
「待ってるから」
それは壊れた
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作者名：京 | 作成日時：2023年4月14日 21時
