歪【ワールドトリガー】 (ページ17)

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開封ページ17

「本部回線に繋いで」

部屋に入って第一声、彼女は慣れた仕草で隅の椅子に腰掛けた。頭部を覆いかけている装置には、たくさんの電極が不恰好に生えている。

「了解」

複数の確認コマンドに全て肯定の返事を返す。最終選択肢の配置が、罠のように逆になっていることもすでに手が覚えている、そんなよくある作業。

しばらく機械の動作音が続く。時折鳴る電子音が、寺島を眠気から遠ざける。
椅子に腰掛けた彼女の肢体はぴくりとも動かない。彼女自身が保存している記憶を見ていることはわかっているが、この後に予想されることを案じて心中は穏やかでなかった。

当直の仕事を終え、Aのトリガー修復を始めて小一時間が経ったか。モニターに向かう寺島の背後で、不吉な音がした。

「大丈夫、袋持ってきてたから」

くぐもった声はビニール越しだろうか。振り向かずに脇の本機に反射した姿を盗み見る。

「さっすが分析の天才、助かるよ」

返答はもう何も出せていなさそうなえずきだったが、その後はビニール袋をまとめる音に椅子の軋む音が続いた。

「ちょっと話し相手になってよ。眠いんだ」

さっさと出て行こうとする気配を呼び止めたが、聞こえていないような勢いで出ていった。
難しいお年頃だな全く。
少し毒づいてから、装置の使用履歴を開いた。ほとんどが一般人の記憶操作の履歴だが、久々に他と異なる履歴が入っている。
あいにくビニール袋は持っていないが、なんとかなるだろう。少しの好奇心で寺島はそれをモニターに出力した。

それは他国の戦争の様子から始まった。ところどころモザイクやら規制音が入っているのは彼女が選択的に施した情報保護措置だろう。これまでに何度かAの記憶から抽出されたデータを見ている寺島は特に気にすることもなく閲覧を続ける。

何人か懐かしい隊員の顔が映る。彼女がそれぞれを言葉巧みに装置に座らせたところも、彼らが記憶を改竄されて自らを救出された民間人だと思い込んでいる様子も登場した。

最後に彼女が遠征艇のシステムを起動させたところで警告音が鳴り、モニターへの出力は停止された。どうやら自分に閲覧が許されるのはここまでらしい。寺島は不満げにリモコンをとり、彼女が閲覧したらしい次の記憶へと進む。

そこに映っていたのは、今より幼い迅だった。