歪【ワールドトリガー】 (ページ14)

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重みをつけた上空からの攻撃は、迅の上半身を袈裟斬り。久々の緊急アナウンスが流れる。
トリオンを浴びてAが煙影に混じる。

「奇遇だね。俺もだよ」

しかし防戦一方だった迅の孤月もまた、Aの喉を突いていた。
風が煙幕を吹き飛ばし、あらわになる二人のはざまを見たAの首筋には縦割が生じる。

「ひどい男」

氷が溶けるような音を立てて、目の前のトリオン体が崩れ始める。

「お前も大概」

そろそろ緊急脱出だろう。急かすのも勿体無くて、迅は彼女の喉から孤月を完全に抜けずにいる。

と、数名の足音。

バレたか。まああれだけ派手に戦えば妥当か。
太陽が水平に差し込む夕暮れの明るさに、迅は少々の誤算を覚えた。

「迅！」

ひび割れはじめたAの顔が、僅かにその声に反応する。

「なにしてるの、はやくして」

早口の無声音が囁かれ、迅の腕が強引に横に引き抜かれた。
頭部が揺らぎ、氷が昇華するように霧散する。一時期話題になった我儘緊急脱出システムだ。

トリオン体が煙に変わる刹那の、首が落ちた瞬間を何回も反芻する自分にうんざりしたように立ち上がると同時に換装を解いた。
生身の重みがひしひしと伝わってくる。

「なにごと？」

斬撃の衝撃で割れた窓ガラスに、崩壊が進んでしまったブロック塀。
駆けつけた小南が腰に手を当ててこちらを見ていた。

「なんでもないさ」

ふと腰のホルダーに目を留めた彼女の視線がさらに刺々しくなるのを感じて、迅は頭を掻いた。