2.5 幽霊 ページ12
その日、ある隊員の復帰通告は数多くの入隊者内示に隠されるように張り出された。
治療室を追い出される日が明日に迫り、元から移動させるものもないAは手持ち無沙汰にラウンジへ出かける。
昨夜から使用許可された個人用デバイスで早速連絡を取った相手と会う予定だ。
もっとも、新入隊員で溢れかえる本部内を通り抜ける術を体得しているかが不安だが。
「幽霊？」
入隊式の開始を告げるアナウンス。
白い隊服を着た隊員たちがホールへ雪崩れ込んでいく。それを見計らったようにこちらに近づいてきた一人。
やはりその体躯ではすり抜けられなかったのか。
「失礼な」
寺島が持つ見覚えのあるトリガーを一瞥し、Aは紙コップを煽った。
残念ながら、申し訳程度に残った茶葉では占いはできなさそうだ。
「よく誰にも絡まれなかったな」
昨夜いそぎで仕上げてもらったトリオン体がまとう隊服は白。さっきホールに流入した大多数と同じに見える。
「おかげさまで」
「感謝しろよ」
そう言いつつ、なんとなく目隠しになるように寺島が立っているのを認めてAは苦笑した。
そして、ガラスのテーブルに待ち侘びていたものが置かれた。
「使えるの？」
恐る恐るつまみ上げてAが訊くと、深いため息が返ってきた。
「粉々にしといて何言ってんだ」
心なしか、恨みがましい視線を向かい側だけでなく手中からも感じる気がする。
「あーちょっと力を入れすぎちゃって」
「そんなもんじゃないだろ」
まあ、守秘義務があるだろうからな、と寺島は追求を諦めた様子。聞き分けが良くて助かる。
目の前で風刃から自分のトリガーに乗り換えた時も何か言いたげだったが、すぐに飲み込んだのがわかった。
「ありがとう」
「室長にもお礼を言いなよ」
「はいはい」
実を言うと会いたくない。しかしこのトリガーの修復を彼に任せたのも、所持を許可したのも鬼怒田さんだと聞いている。
「それじゃ。お前が奴らに会うのか楽しみだ」
「盗聴器仕掛けてないでしょうね」
「盗撮なら仕掛けたかな」
自分を知る隊員に再会する方が難しいかもしれない。鬼怒田室長は序の口か。
「...ずっと謹慎処分が良かった」
「言いふらしといてやろうか」
Aは軽く首を横に張った。
「見つけたらラッキーってことで」
噂好きの寺島の仲間たちのことだ、すぐにボーダー内に広がるに違いない。
しかし私は
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作者名：京 | 作成日時：2023年4月14日 21時
