勿忘草

＿＿ ページ33

「Aは俺の全部やから」


強い風が私と堂前さんを吹き付ける。

堂前さんの表情が、思考が、読み取れない。


『どうしたんですか、急に』


「急ちゃうで、ずっと前から、」


「…………」


『…………』




『堂前さん、』


「度胸ないなあ、俺、」


『好きですよ』

『そういう堂前さんも、全部、好きですよ』




「お前さあ」


堂前さんは大きすぎるため息をつきながら眼鏡を直した。


「俺、めっちゃかっこ悪いやんな」


『そういうとこも好きですよ』


「かっこ悪いのは認めるんや」


『かっこ悪い堂前さんが好きです』


「そんな好き好き言わんで、心臓もたんわ」


『ドキドキしちゃってる感じですか？』


「心臓の音、聞く？」


私の返事も聞かないまま堂前さんは私をすっぽりと腕で包み込んだ。





「なんか、普通に、ショックやった」


「全く男として見られてないんかなって」


「やっぱ好きなん俺だけなんかなって」




『いろいろ悩んだんですよ、私だって』


『堂前さんの運命の相手だったらどうしよう、とか』



「運命とかどうでもええよ、俺はAが好きやから」



『なんかキザですね、堂前さん』


「もうええわ、帰ろか」


また不機嫌モードかと思ったが、顔を覗き込むとめちゃくちゃニヤニヤしていたので、少し腹が立った。



堂前さんと体が離れて、やっぱり肌寒さを感じる。



『今日、寒いですね。』



なんて言って堂前さんの手を握る。



ずっと綺麗だと思ってた堂前さんの骨ばった手が、今私の手の中にある。



『明日も寒いらしいですよ』


「いややなあ、あったかい方がええなあ」






堂前さんがいる空間はいつもあったかい。


あったかいあなたの隣に、いつまでもいられたらいいな。

わんこ - J.K→←＿＿

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す