82．儚い ページ39
貴「…」
ベッドの上で本を開く。
今日はポカポカ日和だなぁなんて思いながら本を読む。
部屋の電気は切って、代わりにカーテンを開けて太陽の光で。
特に何もなくて平和な日常。
天井裏に人が居ることに気がつかなければ。
貴「…いい加減入ってきたら。ゾム。」
「なんや、バレとったんか。」
スタンっとほとんど音を立てずに上から降りてくるゾム。
かなりナイフとか持ってるのにこれだけ音が出ないとそこに居ることを忘れそうになる。
ゾ「…」
貴「…ごめん。」
申し訳なさそうに視線を下に向けているゾムにそう言う。
そんな顔させるつもりは無かったんだ。
ごめん。傷つけて。
ゾ「…なんで謝んねん。可笑しいやろ。なんも、悪くないんに。」
貴「私の行動で、傷を大きくしてしまった。それに、仲間思いな君達を利用して、騙した。私が悪になるために。…結局なれなかったけど。」
本当はなりたくなかったんだ。
感情が分かっていくにつれて、嫌だって思うようになったんだ。
馬鹿みたい。感情を知ろうとしなかったらこんなことにはならなかったのに。
私のせいで。
ゾ「…」
ｷﾞｼ…ｷﾞｼ
ベッドが軋む音がする。
その音に顔をあげれば、優しく、割れ物を扱うように抱き締められる。
さっきのはゾムがベッドに膝と手を付いた音だった。
ゾ「…Aは悪くないねん。俺は傷ついとらん。やから、自分を責めんな。」
最後だけ語気を強めて、ゾムは言う。
自分を責めんな…か。
ずっとそうだったのかも。
ずっと自分を責めてばかりいたのかも。
…誰かを悪にしたくなくて。
いや、出来なくて。
貴「…皆抱き締めてくれるよね。」
ゾ「…遠いから。Aが遠いから。いつか消えてなくなりそうな、そんな感じがしてならん。触れることも出来んくらい、遠くに行ってしまいそうなんや。」
貴「そっかぁ。そんなに儚いんだ、私。」
ゾ「おん。」
それはきっと、いつ消えてもいいと思ってるから。
いつでも遠くに行ってもいいと思ってるから。
誰かの言葉一つで、簡単に出来るから。
そうゆうところは、もしかしたら儚いのかも。
ゾ「俺を…一人にせんといて…」
微かに震えた声が耳元から聞こえる。
不安。
ゾムは今、何かに不安を感じている？なんで？
でも流石にそれを聞く気にはなれなくて、私はゾムの背中を撫でた。
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