【短編集】きみばっかり、ずるいよ。【d!】 (ページ1)

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#01 堕ちる天使×tn ページ1

｢みて、とんち。｣

薄ら笑いも何回見たことだろう。綺麗な横顔がじんわりとしたこの暑さには眩しい。それでいて、綺麗な彼女から目を離すことは出来なかった。否、離せない。今年こそ、と高校最後の夏休み最終日、他の人間には秘密。彼女と自分だけの屋上で、ひとつ。

『なんや、?』

単なる疑問だった。別に深い意味はなくて、気になったことを口にしたただけ。いつもなら馬鹿みたいに笑ってお互いに愚痴や将来の話を交わす。だけ。それ、だけ。

｢私ね、｣

そう言って笑う彼女は。少し、ほんの少しだけど眉を下げて苦しそうに笑っていた。儚くて、消えてしまいそうで、手を伸ばそうと思わず立ち上がる。
網の音が聞こえて、心臓が波打つ音が煩い。

｢大人になんて、なりたくない。｣

フェンスの向こう側に咲いていた。
1輪、萎れてしまいそうな程に震えて。
でも確かにそこには意思があって。

『…ッ、何しと、るん。』

早く、早く彼女の元に走らなければいけない。説得でも何でもして、こちら側へと引き戻さなければならない。この場で、こうして話しているのは自分しかいない。この世界に、咲いてた花が

｢今まで隣に居てくれてありがとう、とんち。｣

落ちた。

『馬鹿ッッ!!!!!!!』

2つに髪を結わえて、向日葵の匂いの黒髪だった。思わずときめいてしまったのは仕方の無いことなんだろう、これが恋心だと気付くのはまだ先だったけど。ブランコの赤い塗装の方に、いつも寂しく座っていた彼女がいつにも増して悲しそうだったから。隣の青い塗装のブランコに腰を下ろし、彼女に話し掛けた。革が少し薄く、金属部分に錆があるランドセルは小学一年にしては古めかしく、なんでだろうと考えた日もあった。

小学校最後の修学旅行に、しおりを何度も読み込み、楽しみにして前日まで満面の笑みを俺に向けていたのに、当日は風邪で行けないと連絡があったらしい彼女が、その後2週間も学校に来なかったこともあった。久しぶりに顔を見たとき、やけに下手くそな笑顔を貼り付けていた気がする。

中学になり、学生には大切なテストというものが始まった。苦虫を噛み潰したような顔をしながらもファミレスや図書館で分からないところを教え合い、自分も彼女もそこそこ点が良かった。「やったな！」と声をかけたが浮かない顔をしていたな、なんて思い出す。そして、必ずと言って良い程に返却日の翌日には体調を崩していた。見舞いに行っても家からは誰も出てこなかった。