ドラジェ・ブルー/knsm ページ8
「先生に、礼ッ！」
「ありがとうございましたッ！」
むせ返るような暑さの中、手拭いで一拭きするだけでは拭いきれなかった汗が、道場の床に頭を下げると同時に滴り落ちる。
高校生に休みなんていうものは殆ど存在しない。そんなの、去年学習したことだし、別に不満も文句も何もないのだが。
それにしても、今日はやけに暑いな。いや、夏なのだからそれが自然なこと。しかし、今日は汗の放出量が尋常じゃない。
拭き取っても拭き取っても噴き出してくる汗の粒は、キリがないほどに。早く帰って洗い流してしまおうと思い、更衣室へ進む足を早めた。
「A先輩、お疲れ様でした！！」
「うん、お疲れ。またね。」
「ハイ！」
流石剣道部。挨拶は完璧だ。流石に高校生になって、続けているのは大体が経験者だろうからか、周りも見えるし気が使える。私達の代も頑張ったつもりだけど、今年はそれ以上かもしれないな。
そう思うと少し悔しい気がしなくもないが、仕方ない。長年培って来た剣道技能が実を結び、一年生からレギュラーに入ることになったのだ。
先輩方に恨まれたりしないだろうか、そんな不安は最初だけで、「頑張って」と優しく声をかけてくれたのがとても嬉しかった。
そして、ハードな稽古をした後は小腹が空く。今はインターハイも終わり、どこの部活動も終わる時間帯は一致しているはず。暇そう且つお腹が減っていそうな友人は校門前にいないだろうか。
視線を四方向に彷徨わせてみると、見知った顔がまず一つ、目に入った。大量の酸素を吸い込んで叫ぶ気にはなれなかったので、普通に歩いて距離を詰める。
「よっ、シマ。お疲れ。」
「……ん?おー、Aか。」
誰かを待っていたのだろうか、校門前の謎の銅像が置かれた土台に寄りかかりながらスマートフォンを弄っていた。
声をかければ、その顔を上げ、軽く手を上げて挨拶を返してくる。一緒にコンビニにでも誘おうかと思ったが、誰かを待っているように見えるからやめておこう。
「……んで、どうしたん?」
「あー、いや。暇ならコンビニにでも誘おうかと思ったんだけど。」
「おう、じゃあ行こうぜ。」
「えっ、誰か待ってるんじゃないの?」
「お前だよ、お前。ほら、行くぞ」
それはずるい。例え仲の良い友達とは言えど、顔の良い異性にそんなこと言われたら動揺してしまう。
そんな思いを噛み殺し、背中を追いかけた。
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