ドーミー・グリーン/osmn ページ5
夕方まで大声で鳴いていた蝉もすっかり息を潜め、太陽は地球の反対側を照らし、月がぽっかりと浮かんでいる。一方で、終わりの見えない暑さは空が漆黒に支配されても変わらず、いわゆる『熱帯夜』としてどこまでもわたしたちを苦しめた。
今夜は実に夏らしい夜だ。平安時代の随筆を思い起こさせるように蛍が飛び交い、部屋も外も蒸し暑く、蒸し暑く、蒸し暑い。とにかく湿度と温度がどちらも高く留まっているせいで、滲む汗が扇風機に吹かれて乱れる髪を肌に吸いつかせる。何度指で剥がしても執拗にべたりと張り付く、自らの長い黒髪が非常に鬱陶しい。
「あ"ーーーーーーー……」
それらもすべて、扇風機の目の前で口を開けて『宇宙人が通信するときの挨拶ごっこ』なんてバカみたいなことをしている、暑さに負けたわたしの自業自得なのだが。
冷房の一つでも付けられたら、この地獄も楽園になるのだろうが、あいにくお金に余裕はない。毎晩仕事に疲れ果てた同居人を迎えるのは、涼しい部屋でも綺麗なお姉さんでもなく、蒸し暑い部屋と色気のないつるぺた女子高生だというのだから笑うしかない。せめてわたしの胸がもうちょっと育っていたら違ったのに。
そうないものねだりをしても、ないものはない。最も悲しいのは、タンクトップにホットパンツというできる限り涼しく過ごせることを最前提に置いた部屋着を着ていても、体のラインが一切強調されないことだ。扇風機の前で胡座をかいている姿は、はたから見れば滑稽なのだろうか。
「まだかな……」
ぼそりと呟いたそれも、扇風機は丁寧に宇宙人化した。テーブルに置いた茶碗や皿は当然だが空で、そこに盛られるべきものはまだ炊飯器やフライパンの中でゆっくりと冷えつつある。できれば少しくらい温かいうちにいただきますをしたいな、なんて思って、ぐいと伸びをした。
噂をすればなんとやら。
カンカンと階段を登る靴の音が聞こえた。あの音は間違いない。少し重いテンポの良い足取りは、間違いなく同居人＿＿オスマンさんのそれだ。それに気分は上昇し、思わず手に力が入った。すくっと立ち上がり、駆けるように玄関まで向かって、ドアノブの上にある鍵が開けられるのを待つ。例えるなら、忠犬がご主人様を待つように。ガチャリと開かれたドアから身体を滑り込ませたわたしの大好きな同居人に、飛びかかるような勢いで抱きつく。硬い生地のスーツに腕を回し、頬に落とされる口付けを受け止めた。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
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