ラベンダー/nisn ページ26
ねぇ、先輩。
私、時々、あなたが分からなくなっちゃうんです。あなたは、策士の顔した馬鹿なのか。馬鹿の顔した策士なのか。
ああ、答えが欲しい訳じゃないの。けどね、だけどね。あんまりそういう態度とってると、私だって一応女、なんですから。
先輩、私のしょうもない性格、知ってるでしょう?あなたが1番、分かっている筈でしょう?ねぇ、いつまでもそのまんまだと……
調子、乗っちゃいますよ?私。
・
ざわめきと熱気が充満する室内は、お世辞もなりを潜める程に居心地が悪い。その根源がアルコールであるなら、尚更。今だけ、上っ面を取り繕うことには長けた表情筋に感謝しつつ、いい加減痺れてきた足をそろりと崩した。
新人OLの飲み会なんてこんなもの。そうでしょう?顔を茹でだこと見分けがつかないくらい赤らめた上司達の、面白くも何ともない話に無心で相槌を打ち続ける。所詮、ただの酔っ払い。適当にヨイショしておけば相手の機嫌をそこねることはまず無いし、私に被害が及ぶこともそうそうないだろう。生憎、こんな公の場で無様に酔っ払っているような勘違い野郎には、これっぽっちも興味がないので。
そう、そもそも、私の興味の範疇に入るヒトなんて………
ちらり、時計を確認する振りをしてざわめきの中に視線を巡らせた。パッと見、あの小洒落た背中は見当たらない。彼のことだ。大方、トイレだなんだと理由を付けて煙草でも吸っているのだろう。なんとも彼らしい。
「ねぇ、Aちゃん」
「っ、はい?」
ハッとして振り向けば、口元に微笑みを浮かべた色素の薄い細身の男性が、私の顔を覗き込むようにして座っていた。…心做しか、やたらと距離が近い…気がする。とりあえず少し身を引いて、こちらも口元だけで笑い返した。
「いや、Aちゃん全然飲んでないなーと思って」
「あぁ、いえ、お構いなく…」
「そんな堅いこと言わずにさぁ、ちょっと付き合ってくれない?そもそも飲み会って、従業員達の貴重な交流の場じゃん?」
俺、前からAちゃんと腹割って話して見たかったんだよね、などと浮ついた調子のこの人は、私より1つ歳が違うだけなのに、随分と仕事は出来ると噂の若手上司、だった筈。以前、そこそこに仲の良い同期の子が、声高に文字通り熱弁を奮ってくれたので嫌でも覚えている。
さて、そんな彼が私に一体何の用だろう。
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